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Wednesday, March 11, 2020

福島県の浜通りに担い手が主役の「農業テストフィールド」を - 金子信博|論座 - 朝日新聞社の言論サイト - 論座

 いよいよ、東日本大震災から10年目の年に入った。福島県にとっては、地震、津波被害だけでなく、人類史上例を見ない原子力災害に見舞われ、不条理なことに多くの人々の暮らしが大きく変わらざるを得なくなった。いくら時間が経っても事故の記憶を風化させてはならないことはもちろんであるが、今も解決されない問題が山積しており、知恵を合わせて解決する努力が必要になっている。

「食農学類」と地域での実習

 福島大学に「食農学類」という農学系教育研究組織を設置したことは、この論座で昨年紹介した(「福島に新しく『農学部』を作る」)。全国有数の農業県である福島県に大学農学部がなかったことは、正直なところ、多くの人にとって驚きであったろう。この設置は、論座の記事として田原博人先生にも、大学における教授会によるボトムアップな意志決定の好例として取り上げていただいた(「無力化された学部教授会、ボトムアップで活性化を」)。

 一方、設置から1年が経ち、地元の歓迎ムードの先に、はたしてこの小さな学部に何ができるのかが問われる段階に入る。

拡大福島大学食農学類の1期生による田植え= 牧雅康(福島大学食農学類)撮影
 食農学類の1年生は全員が必修科目として「農場基礎実習」を受講する。農場実習といっても、食農学類の全ての分野、すなわち、環境から、栽培、食品、そして農業経営まで網羅する実習である。

 5月に田植えの実習があり、これは「田植えを楽しむ」というタイトルで、学生全員が教員と共に田んぼに入って手植えをする。意外にも、学生だけでなく、教員でも田植え初体験の者がいて驚くが、泥田に足を入れ、苗を植える体験は単純に喜びを共有できる。

 その隣では、農機具メーカーの協力を得て、最新鋭の田植え機がすごいスピードで苗を植える。田植え機にはGPSがついており、ハンドルを握らずとも直線を保って植えてくれる。学生には、手植えとのスピードの違いを体験してもらう。春の明るい日差しに、学生の笑いが広がり、実習を手伝ってくれる近くの農家も満足げである。

震災後10年の節目において

 福島県に限らないが震災後、一般のボランティア、全国の自治体、企業そして、国立公立の研究機関や大学が、被災地に支援のために訪れた。特に研究機関や大学は、ボランティアに留まらず、研究経費を自ら用意したり、公募によって獲得したりして、さまざまな研究活動を行った。9年が経過し、その多くはすでに研究期間が終了し、学生を送り込む制度を設けた大学も、10年の節目に活動を終えようとしている。

 この間、食農学類では新設の学部として新たな教育を進めつつ、福島県が募集した「大学等の『復興知』を活用した福島イノベーション・コースト構想促進事業(重点枠)」に応募して、これまで浜通りで活動してきたいくつかの大学と連携し、「復興知」をとりまとめる活動「福島発『復興知』の総合化による食と農の教育研究拠点の構築」を2019年度から開始した。

拡大「浜通り地域における大学等の『復興知』」事業の展開と社会実装」第1回シンポジウムの案内
 イノベーション・コースト構想促進事業における福島大学の活動は、これまでに得られた「震災知」を散逸させないようにし、「復興知」として世界中の災害への対処に活かす方法を探るものである。被災の記憶を残すものとして、国は「東日本大震災・原子力災害伝承館」をつくっているが、復興のあり方を客観的に評価し、「復興学」の確立へとつなげる学生や研究者の視点からの整理も必要であろう。福島大学は被災地の地元の大学として、他大学と協力して継続的に復興に関わっていく。

 福島県は広い。県外の地域より汚染が少なかった西部の会津、新幹線が通り人口の多い中通り、そして海に面して原子力発電所や火力発電所が立地する浜通りは、それぞれ異なる文化を持ち、気候や土壌も違っている。残念ながら、農産物は震災後から現在に至るまで「福島県産」というだけで、県内のどこで生産されたかや環境の汚染の程度にかかわらず、風評の影響を受けてきた。たとえば、福島県の資料(ふくしま復興のあゆみ第27版)によると、全国平均に比べて震災後、コメは60kg当たり1000円以上安い年もあった。今は回復基調にあるものの、昨年度は依然として418円安い。桃と肉用牛(和牛)はそれぞれ全国平均の81% と91%の価格で取引されているという状況である。

浜通りで検討される新たな教育研究拠点

 現在、復興庁では、「福島浜通り地域の国際教育研究拠点に関する有識者会議」が設置され、今後の福島の浜通りの復興に関して国立研究法人の設置が検討されている。その目的として打ち出されたのは、福島第一原子力発電所の廃炉、燃料電池自動車に使われる燃料用水素の製造を含むエネルギー研究、ロボットテストフィールドを用いたロボット開発などを通して新産業を振興すること、そして農林水産業を振興することだ。福島大学食農学類としては、この構想においても、農林水産業の振興にぜひ貢献したいと考えている。

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March 12, 2020 at 08:11AM
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