農薬や化学肥料に頼らない有機農業が盛んな埼玉県小川町に仲澤康治さんが移り住んだのは28歳の時だ。衝撃を受けた福島第1原発事故の翌年である。故郷の茨城県で有機栽培の野菜を売る会社に勤めていたが、「持続可能な循環型社会を目指したい」と就農を決意した▲先駆者として海外でも知られた金子美登(よしのり)さんの下で学び、独立した。緑豊かな秩父の山に囲まれた田畑で、落ち葉や牛ふんなどを発酵させた堆肥(たいひ)をまく。収穫したニンジンやサツマイモはとびきり甘く、枝豆や小松菜の風味は格別だ▲耕作に汗を流す日々は充実している。一方、一人でこなすのは予想以上に大変だった。夏は草刈りなどに追われ、体調を崩すこともあった。猛暑や大雨の被害にも悩まされた▲支えとなっているのは地域のつながりだ。知的障害があり、グループホームに入居する人たちが農作業の応援に来てくれるようになった。食事に野菜を提供すると、「おいしい」と喜ばれた。自然の恵みも大きい。輸入の化学肥料を使う農家は円安による価格高騰に苦しんでいるが、堆肥はそうした心配がない▲ただ有機農業が全国の農地に占める比率は1%にも満たない。政府が原発推進に回帰していることにも危うさを感じる。先月死去した金子さんの教えを生かし、地道に実践を積み重ねていくしかない▲2年前からは都会の人も対象にした稲作の体験教室を開いている。里山のふもとに舞うホタルをもっと増やし、自然の素晴らしさを分かち合うことが目標だ。
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October 24, 2022 at 12:02AM
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余録:農薬や化学肥料に頼らない有機農業が盛んな… - 毎日新聞
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