農村に暮らす高齢者で男女ともに都市に比べてうつが多いと発表したのは、京都大学などの研究チーム。日本老年学的評価研究機構が行った全国39市町村に暮らす65歳以上の14万人を対象にした。趣味やスポーツ、ボランティアなどに参加していないことが関係していた。農作業が忙しく、社会参加がしにくいことが背景にあると専門家はみる。
農家密度が低い地域ほど、うつ症状の疑いのある確率が高いという研究結果もある。家族以外に誰とも話せない孤独感や、「つらい」と打ち明けられず自ら悩みを抱え込み、精神的な病につながっているようだ。心のケアを急がねばならない。
高齢者だけではない。北海道大学大学院の佐藤三穂准教授が2018年から19年にかけて道内の酪農家273人を対象にした「人の健康と経営の健全性」調査によると、心が抑うつ状態にある女性は20~59歳で41%と、男性の16%を大きく上回った。一般社会では女性は32%、男性17%で、酪農家の女性でうつ傾向が高いことがうかがえる。
こうした心の問題を放置していれば経営上の大きなリスクとなるだけでなく、最悪の場合は自殺につながる。厚生労働省が発表した昨年の農林漁業者の自殺者は298人。全体の4割がうつなどの健康問題を抱えていた。
東京大学の研究によると酪農・畜産産出額が高い地域ほど自殺率は高いという。資材高騰で経営環境は一層、厳しさを増す。農業・農村を守るには、経営面だけでなく精神面の支えも欠かせない。
子どももリスクを抱えている。国立成育医療研究センターが行ったコロナ禍が精神に与える影響調査では小学生の9%、中学生で13%に中等度以上のうつ症状が見られた。体の不調は病院に行きやすいが、心の不調ではカウンセリングや病院にかかりにくいことも解決を遅らせている。
動き出したJAもある。北海道のJA道東あさひは自治体などと連携して、悩んでいる人に寄り添う「ゲートキーパー」を養成している。JAグループ福島は、職員の心の悩みに応えるカウンセリングルームを福島市内に設置した。「いのちの電話」などの無料電話相談も積極的に利用したい。
誰かに心のつらさを吐き出せる環境をつくることが命綱となる。各地の取り組みを横展開し、全国に広げよう。
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