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Tuesday, January 3, 2023

「食と農のメディア会議」 農の多様な価値高めて 農業メディアの役割は―― - 日本農業新聞

 日本農業新聞は12月2日、東京都内で「農業メディアの役割」をテーマに、有識者による「食と農のメディア会議」を開きました。委員からは、大きく広がりつつある食と農への社会の関心を追い風に、農業・農村の持つ多様な価値を高めることへの期待の声が相次ぎました。


 ――まずは農業・農村の方向性についてお考えをお願いします。

 小田切委員 国民の食料・農業・農村への関心が桁違いに強くなってきています。焦点になり始めているのは誰一人取り残さない食料供給やデジタルを使った顔の見える関係の再構築、関係人口や田園回帰などです。

 私たちが国土交通省と取ったアンケートによると、いわゆる関係人口の中で、地方部の特定の地域に通って、しかも通う目的がイベントの裏方などの「直接寄与型」の人数は三大都市圏だけでも約300万人います。農山漁村では少なくなりますが、1集落当たり3、4人いる計算です。そこで注目されているのが「農業×X」。農業と何かをかけ合わせることで、新しい価値が生まれる。農業という産業が新しい価値創造の基盤的産業になるという理解です。

 佐藤委員 コロナ禍で僕ら子育て世代がどこで子どもを育てたいと思ったかといえば、それは農村でしょう。感染がどう広がるか分からない中、農村では5~10メートルは普通に距離を取れますからね。さらには土を触らせたい、緑の中でいい空気をとなったら、農村しかありませんよ。そこで多様な人たちが生活できるようなインフラ整備は必要だろうと思います。

 一方で、僕らみたいな専業農家はもっと踏み込んだ方がいい。踏み込むとは「食卓にのせるにはどうしたらいいかを考える」ということです。そこをもう少し意識して生産していく。まずは日本でファンをつくる。それができて初めて農業も農村も維持できていくと思っています。

 生駒委員 農水省も食料生産のデジタル化に取り組み始めていますが、スマート農業には功罪があります。スマート農業を実証したメーカーの中からは「ロボットに合わせた農場をつくらないと駄目だ」という声も未来に向けて出てきています。本来、人の動きを助けるためのスマート農業が、機械に合わせて人が動く必要があるという工業的な観点も知見として獲得する形となりました。その結果、アグリテックがビジネス・投資の材料になってきた。それが農業・農村の振興にどう働くのかも運営者として考えていかなきゃいけないポイントかと思います。

 田中委員 私が地方の最先端ともいえる島根にいて感じるのは、農業・農村には今とても追い風が吹いているということです。消費者としての関心だけでなく、自分で少しでも何か作ってみたいという人が増えています。若い世代では特に、社会の基本である食べ物を作る農業者へのリスペクト(尊敬)が高まっています。

 専門的に商売をしている人だけでなく、誰もが本を薦め合う、言い換えれば「みんなが本屋さんになる」世界を目指している本屋さんがいます。私は同じように「みんな農家になったらいい」と思っています。それは結果的に、農ある暮らしを営める場所としての農村の価値を高めることにもつながるのではないでしょうか。

 ――農業・農村の新しい価値にいろんな人々が気付き始めています。その中で農業メディアに期待される役割とは何でしょう。

 小田切委員 本来の農業メディアが持っているメリットは何なのかというと、それはやはり何といっても現場発の情報発信だと思っています。今までの蓄積、あるいは地域との信頼関係が違うがゆえに、そこで勝負していただきたいと思います。

 それからもう一つは「農業×X」のXの部分です。つまり福祉や教育、ITに農業メディアが越境していくことが必要になってくる。記者それぞれが第二の専門として福祉とか、そういう得意分野をもう一つ持つ。そういう時代になっていると思います。そのことによって、越境して生まれる新しい価値の本質は何なのかということも見えてくると思います。

― “現場発の発信ぶれずに” “次世代育てる視点を” ―


 佐藤委員 メディアには発信する責任があります。そこで世論の流れが変わってしまうこともあるからです。農業メディアには農業の価値観の形成につながる場合があります。そうした中で僕らの考え方でいくと、学生や児童世代への教育投資が極めて必要です。戦後、一番やってこなかったことがそれかなと思います。

 農業メディアがそういうことも考えながらやっていけば、20年後は小学生が農業に一番詳しくなるかもしれません。現役世代を守っていくことも大事ですけれど、先を見ることなしでは立ち行かない。お金だけじゃなく、知識や情報、全てのインフラをそこに集中させていくということも必要なのかなと思っています。

 生駒委員 JAのデジタル化をお手伝いする中で見えるのは「収束」から「分散」へという傾向です。産地一体の出荷から「それでは不平等になるので稼ぐ人たちだけ分離しよう」という動きです。そこから生じるライフスタイルの違いによるあつれき。この対立軸をどう見るのかも一つの役割かなと思います。

 一方で、「見える化」されると感情的に反発していた人も変わることがあります。そういった「変える役割」もあるでしょう。モニタリングも一つの役割として持ってほしい。「記憶を記録としてとどめておくためのメディア構築」にも期待したいところです。

 今求められているのは目標を設定する力(問いを立てる力)です。農業メディアとして未来の目標設定をしていけたなら、目標を設定して問いを考える農業者が増えるのではないでしょうか。

― “未来の目標設定今こそ” “最後に残るのは信頼” ―


 田中委員 私なりに考えたのは「信頼」です。フェイクニュースもあふれる中で、最後に何がメディアをメディアたらしめるのかといったら「あそこの書いていることだったら信頼できる」というところ。その信頼を誰がつくっているかというと、それはやはり記者をはじめとする社員の皆さんです。

 広報・PRの戦略が発達したこともあり、広報とジャーナリズムが混同されてしまいがちです。ファクトはファクトとして、愛があれば批判もするし、より良くなってほしいと思ったら厳しいことも書く。しかしそこがなかなか理解されにくい。そうした社会の変化を踏まえた記者、社員たちの働きやすい職場づくりも、強く求められていると思います。


■識者プロフィル■

小田切 徳美

おだぎり・とくみ

明治大学農学部教授

 1959年生まれ。博士(農学)、東京大学農学部助教授などを経て2006年から現職。専門は農政学、農村政策論。農業問題研究学会代表幹事。

佐藤 崇史

さとう・たかし

全国農協青年組織協議会会長

 1981年生まれ。岩手県奥州市で水稲15ヘクタール、大豆10ヘクタールなどを栽培し、ブロイラー7万2000羽を飼養する。JA江刺青年部所属。2022年から現職。

生駒 祐一

いこま・ゆういち

テラスマイル代表取締役

 1977年生まれ。2010年グロービズ経営大学院卒。14年に「全ての営農者を豊かにし、国家を守ることを創造する」を使命にテラスマイルを創業。

田中 輝美

たなか・てるみ

ローカルジャーナリスト

 島根県浜田市出身・在住。山陰中央新報社記者として2013年に琉球新報社との合同企画で新聞協会賞。14年にローカルジャーナリストとして独立。

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January 04, 2023 at 03:05AM
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