5年に1度、農林水産省が実施する国の基幹統計「農林業センサス」の一部で、60年以上の歴史がある「農業集落調査」の存廃がいま、議論になっている。次回2025年について、農水省が「実施が困難」だとして廃止の方針を示したところ、研究者らが猛反発。継続を求める署名は1000人を超えた。一方で、基幹統計は、相次ぐ不正で信頼性が低下。統計にかかわる職員の減少も進む。国の政策立案を支える重要統計は、大きな変革を迫られている。(特別報道部・山田祐一郎)
◆「農村住民置いてけぼり」
反発を受け、農水省は今月8日の第3回会合で、集落調査の主要項目を別の調査に組み込む案を提示するなど方針転換した。だが、農家や企業など経営体が存在しない集落は調査から漏れることになり、これまでの調査対象をすべてカバーできないという。前出の戸石氏は「代替案で抜け落ちる集落が、むしろ過疎対策などでキーになる。産業としての農業政策と農村政策は両輪のはず。成功している農業者だけに焦点を当て、農村住民を置いてけぼりにするのか」と批判する。
農林業センサスなどの国の基幹統計は、公的統計のうち統計法に基づいて指定する特に重要な統計で、行政の政策立案や学術研究に使われる。
「統計は、国民が国の実情を知り、政策を評価し、意思決定するために不可欠な社会インフラ。かつては、指定統計(基幹統計の前身)をいくつ持っているかが省庁の情報収集能力と発信力の裏付けとなっていた」と説明するのは信州大の舟岡史雄名誉教授(統計学)。だが近年、その根幹が揺らいでいるという。「1990年代以降、統計の専門知識を持った職員が減少し、いまある統計を維持するだけになっている。情報通信技術が進歩しても、統計部門ではそれを生かした技術革新が十分には進んでいない」
さらに、基幹統計を巡る不正が相次いだことで、その信頼が大きく低下した。
18年に発覚したのが厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の不正だ。雇用動向を把握するため、全国の事業所の賃金や労働時間を調べ、結果は景気判断に用いられるほか、公的保険の給付額算定にも使われる。同省が04年に一部で調査方法を全数から抽出に勝手に変えていたため、統計上の賃金が実態より低めになり、雇用保険などの給付水準も下がるといった影響が出た。
不正を受け、各省庁で点検した結果、基幹統計の約4割で不適切な処理が見つかった。その後、21年には、国土交通省が建設業者の受注に関する「建設工事受注動態統計調査」で、都道府県にデータ書き換えを指示したり、業者の受注を二重計上したりしていたことが発覚。データは、GDPの算出に反映されており、影響が懸念されている。
◆統計への信頼失えば行政への信頼も…
公的統計の現状について、舟岡氏は「国民が統計を信頼しないようになれば、行政も信頼されない。一度失った信頼を取り戻すには相当な努力が必要になる」と危機感を口にする。
統計が不正確であったり、不正に手が加えられたものであれば、国の政策がゆがめられる危険性もある。
元厚労官僚の神戸学院大の中野雅至教授(行政学)は「二大政党制では、政策の成果を巡って統計がより重要視される。安倍政権時代には、あるはずの統計が出てこないなどのケースもあった」と指摘。その背景を「霞が関の中央省庁では、統計の比重が非常に低い。データをいじることへの罪悪感や正確であることの重要性が共有されていない。統計の透明性や自律性が必要だが、人員バランスが悪く、現場は疲弊している」と説明する。
今回の農業集落調査廃止を巡る議論について「政策面で活用が少なく、統計を『作らされている感』のある省庁側と、『あって当然』という研究者側の意識のずれがあったのだろう」ととらえるのは、政府統計に詳しい法政大の平田英明教授(日本経済論)。社会構造が変容する中、信頼される公的統計を維持するには、統計を作成する側と使用する側双方の理解が重要だと訴える。
「誰のための統計なのかを意識する必要がある。基幹統計は公共財であり、政府の政策立案のためだけではない。ユーザーの意向を無視して廃止するのはやはり、慎重であるべきだ」
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