デジタル化が進めば進むほど、実体のあるタンジブルなもの、「手触り感」のある体験や商品がより価値を持つようになります。「農業」は、農作物が日々成長するという手触り感があり、その奥に文化や歴史といった琴線に触れる存在があります。都心在住者が農業に魅了される理由を紐解いていきましょう。(ONE・GLOCAL代表 鎌田由美子) 【この記事の画像を見る】 ※本稿は書籍『「よそもの」が日本を変える』(日経BP)の内容を抜粋し、一部再編集しています。 ● 都心在住者が 「農業」に魅了される理由 日本を代表する音楽プロデューサー小林武史さんが音楽活動の傍ら、有機野菜の栽培や養鶏に取り組み始めたのは10年以上前のこと。2019年秋には千葉県木更津市にサステナブル ファーム&パーク「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」をオープンしています。 なぜ、高感度の人たちの多くが農業に魅了されるのか? 共通しているのは、ものづくりの奥深さでしょう。同じ土地でもつくり方で出来上がりが変わるだけでなく、天候など自然に大きく左右され、常に同じものはできません。形は不ぞろいであっても味の濃い野菜に驚いたり感動したり。 環境ともつながる生き方を体感し、同時に入り込むほどに、サプライチェーンの中での商品の流れと、身近なものづくりとの違いに気がつきます。 今まで、農業に参入していた人の多くがこうしたイノベーターでしたが、その活動がよりボリュームの大きい層にも広がっていることを感じています。
● 小ロットでも高付加価値を武器にした ビジネスが可能になった 彼らは生活のための仕事を維持しながら日々のライフスタイルの充実のために農業に携わるタイプと、いずれ独立することも視野に入れながら農業に取り組むタイプの2種類がいます。後者はやりたいことだけでなく、経営面や技術面、仲間づくりなど、トータルで考えているのが特徴です。 こういった形で農業に携わることができるようになったのは、インターネットの普及で情報の習得が容易になり、ECによる初期負担の少ない販売ができるようになったことが大きい。つまり、小ロットでも高付加価値を武器にしたビジネスが可能になったのです。 その要因として、取引先の変化も大きいと思います。例えば、お酒ではマイクロブルワリーやマイクロワイナリー、マイクロディスティラリー(小規模蒸留所)といった小さいからこそ強く個性を打ち出せる工房が作る商品が、その希少性も含めて人気となっています。それらの多くは畑を持ちませんし、一部は都会で工房を展開しています。 ただそのこだわりの強さ故、望む素材を仕入れるために農家に指定の品種を作ってもらうところもあり、農家との結びつきは強い。こうした交流によって、農家は新たな視点を得てつくり手としてのモチベーションが高まり、栽培品種の幅が広がっています。一気通貫型の6次産業化ではなく、こういったアライアンスも農業に影響を与え始めているのです。 一方、都心でも農業が身近になっています。レンタル農園が増えており、商業施設の屋上などは以前からすぐに募集が埋まる人気ぶりです。外出自粛中に家庭菜園を始めた方も多いのではないでしょうか。自分で農作物を育て始めると、意識に変化が起こります。家庭菜園で化学肥料を使っているという人はあまり聞いたことがなく、多くが有機肥料や家庭の生ごみを堆肥化して野菜を作っています。 土に目が行き始め、もともと持っている自然の力で、健康な野菜をどう作ろうかと考えるようになります。虫や病気との闘いもしかり。化学肥料や農薬の便利さやコストを知ると同時に、それを使わない栽培の手間も学ぶことになります。さらに、見た目の美しさにこだわらなければかなりのことができること、傷や虫がついた野菜もおいしいことを発見し、共存する虫を大事にするゆとりも生まれます。
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June 01, 2021 at 04:08AM
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