政府がまとめた2021年度の農業白書は、スマート農業に対する農業現場からの需要が「高いことがうかがわれます」としている。特に農業者が期待しているのが省力化であり、次いで多かったのが軽労化だ。どちらも労力不足への対策。裏を返せば、農村の労力不足を最新技術で埋め合わせようという姿勢が農業のスマート化を進めている。
しかし、スマート農業技術を労力対策だけにとどめていてはもったいない。他にもできることは多い。その一つが地球環境への負荷軽減だ。
オランダの畜産施設会社は、牛の尿を集めるロボットを開発した。これで大気中へのアンモニアの放散が抑えられ、その分の窒素が肥料として利用できる。大学との実証試験で、科学的データの収集も進める。国内でも計測技術を進化させ、過剰施肥を防ぐシステムが開発されてきた。ふん尿処理や堆肥化装置も、スマート化によって、地球環境の保全に貢献できる余地はある。
農水省は、昨年まとめた農業現場にデジタル技術を取り入れて変革を起こす「農業DX構想」で、「消費者ニーズを起点にしながら、デジタル技術を活用」するとしている。スマート農業の推進に消費者の意識を重視した。
農業DXを進めるポイントとしては、「デジタル技術効果のわかりやすい伝達」を掲げる。最新技術を利用する農業者に対し、作業の省力化や経営の効率化といった効果を分かりやすく伝達することは当然だ。
加えて消費者の心に訴えることが求められる。ここで生かしたいのが、環境や地域に配慮した消費行動を意味する「エシカル消費」を重視し始めた消費者の意識に働きかけることだ。消費者は価格や品質だけでなく倫理的に公正か、エシカルな手法で生産されたかを考慮して購入するようになってきた。安価でデザインが良い服でも、少数民族を過酷な条件で働かせて生産しているような商品は購入を避ける傾向にある。温室効果ガスを大量に排出して生産された商品も同じだ。
スマート農業を普及する際は、省力効果だけでなく地球環境の保全に役立つ技術であることも広くアピールしたい。それによって消費者の支持も得られ、生産現場に技術がより浸透しやすくなる。研究側も、地球環境の改善に着目したスマート農業の技術開発も進めるべきだ。
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June 05, 2022 at 03:07AM
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