「業務用のアプリ開発を得意とするIT企業が、『農業』と『飲食業』の事業を始めた」という情報を耳にしました。
パソコンとネットワークで仕事をし、土とは縁がないように見えるIT企業が、どのように農業と接点を持ったのか、携わる人はどんな人なのか...を明らかにすべく、その会社、株式会社メディアプロさんを訪ねました。
長年の信頼関係から、会社の後継者に
現在、代表を務める三浦光貴社長は、4年前に入社し、その後代表取締役に就任。お父様がIT会社を経営していた影響もあり、自身も大学では情報系の学部で学びましたが、大学卒業当初は、水泳のインストラクターとして8年間スポーツクラブに勤めていました。
こちらが三浦社長。さすが水泳をやっていたこともあり、ガタイの良さが目立ちます!
転機となったのは、お父様が亡くなり、IT業界でつながりがあった方たちが葬儀に来てくれた時に話をしたこと。「父さんの遺志を継いでこの業界に来い」と言葉をかけてもらい、転職を決意したのです。
お父様と関わりがあったIT会社に勤務して15年ほど経験を積み、独立して起業。その間、メディアプロとは取引先として、現会長である玉澤眞由美さんと共に仕事をしていました。会長とプライベートでも家族ぐるみで付き合うほど親しくなるうち、「会社を手伝ってほしい」との打診が。強い信頼関係もあり、この話を受けようと、メディアプロに入社し、3年後に代表取締役に就任しました。
こちらメディアプロオフィス内
メディアプロの得意分野は、業務系のアプリケーション開発。駐車場の予約や道路の補修見積依頼、求人サイトのエントリーなど、さまざまな分野のアプリを開発しています。道内はもとより、首都圏の企業からも制作を受託しています。
プログラマーの人数も少しずつ増やし、開発からサポートまでワンストップで請け負う体制を作っています。
憧れていた料理の道へ、単身タイで勉強
IT業界で着実に歩んでいるメディアプロに、2021年に立ち上がったのが、「AIT事業部」です。Aは、Agriculture(農業)、IはIT、TはTable(食卓)。農業生産者と連携し、飲食や加工品開発、マルシェ等での販売、ECサイトの構築など、ITを駆使して食を豊かにする事業です。これまでITひとすじで歩んでいる会社と農業は、どんなつながりがあったのでしょうか?それを答えてくれたのが、AIT事業部の部長、前田竜太さんです。
こちらが前田さんです。
前田さんは大学で農業や畜産を学び、農業系の商社に就職して、生産物の流通に携わる仕事をしていました。そこでレシピブックの制作に携わり、ホテルのレストランに出入りするようになり、憧れていた料理の道へ進みたいと思うようになりました。
「当時はテレビ番組などの影響もあり、料理人になりたい人が多い時代でした。しかし将来独立するなら、10代から料理の修行をしている人たちより、大学を卒業して4年間働きスタートが遅い私では、フレンチやイタリアンなどのメジャーな分野では勝てないと思ったのです。そこで、エスニック料理を学ぼうと、タイに行ってしまいました」
持ち前の行動力を発揮して単身タイへ移動。
そのまま1年間タイに住み、屋台や飲食店で修行したり、ラオスやベトナムなど周辺の国や地域も旅して現地の料理を学んた前田さん。しかし、途中でクーデターが起こり、ビザが更新できなくなり帰国を余儀なくされました。
帰国後は自分の店をオープンし、5年ほど続けていましたが、売り上げが芳しくなくなり閉店。デパートやスーパーマーケットのタイ惣菜プロデュースなどに活躍の場を移し、FMラジオの番組にも出演するようになりました。
オフィスにいる時とがらりと雰囲気が変わる前田さん。
アジア料理店がAIT事業部のきっかけに
そのうち、前田さんが講師を勤めていたタイ料理教室の生徒の1人から「一緒に店をやろう」と声が掛かりました。その人がオーナーとなり、前田さんがシェフとしてアジア料理店「亜細亜キッチンGapaou」をオープンすることになったのです。このGapaouが、今も前田さんがシェフとして立つ店であり、AIT事業部ができる起点となった店です。
こちらが札幌駅から徒歩5分程の場所にあるGapaou
三浦社長との接点も、ここから動き出します。
実はもともと、三浦社長が最初に働いていたスポーツクラブで、前田さんが学生時代にアルバイトをしたのが出会いのきっかけでした。
その後はSNSでつながり、Gapaouがオープンする時に「店を始めるので食べに来てください」とメッセージを送ったことで、会社が近かった三浦社長がよく食べに来るようになったそうです。
Gapaou店内にて
当時のことを三浦さんはこう振り返ります。
「その当時、ITの分野で今後5年、10年と業績を伸ばしていけるか?と考えていましたが、既存のITの分野ではそれを見出せずにいました。そこで、違う分野をITにつなげれば何かが生まれるのでは、と模索していたところでした。前田の店で料理を食べながら話をするようになり、農業と食をITでつなげる発想が、おぼろげながら生まれてきたのです。ちなみに、以前は辛いものが苦手でしたが、Gapaouに通ううちに大好きになりました(笑)」
優しい雰囲気が溢れだしている三浦さんです!
6次化とITを掛け合わせ、食を伝える
前田さんは、「味や温度が伝わらないITで食が伝わるのか」と疑問視していたといいます。それでも、「生産者が作ったものを活用し、ITで情報を伝えたり物を販売し、リアルで会える人に飲食店で料理を提供したり、加工品を食べてもらうことで、オンラインとオフラインの両方を活かせばいい、と考えるようになりました」
農業生産者が加工品を作って販売する「6次化」が注目されていますが、実際は何を作ればいいか考えるところから、設備や許可申請など、いくつもハードルがあり、農作業と並行して進めるのは難しいと前田さん。
「個人の耕作面積が小さい本州ではすでに自分の名前を売る手段として取り組む人が増えていますが、大規模農業も多い北海道ではなかなか取り組めない人が多いんです。そこで、私たちがレストランや加工品開発でプロモーションし、ITを使ったマーケティング、ネット販売という形で生産者の方にお返しできればと考えました。自分は商社にいたので流通の仕組みもわかっているし、生産者とのつながりもあり、調理もできるので、このような形を考えました」
若い人のお酒離れ、コロナ禍による外食から中食への変化など、飲食店にとっては厳しい状況が続きますが、「人は食べることはやめません。食べるには、素材が大切です。例えば、米や野菜は土地や作る人によって味が違いますが、生産者ごとのブランドとして食べられる機会は現状ではほとんどありません。それをAIT事業を通して体験してほしいですね」
とってもイキイキ話してくれる前田さん
2021年度は、Gapaouを始め飲食店のコンサルティングや加工品の開発に取り組んだり、札幌や東京でマルシェイベントを開催するなど、北海道若手女性農業者集団「Links」を始めとする生産者と手を結んで一歩を踏み出しました。
「もともとこういった構想を描いていましたが、資金や人、技術の面で躊躇していたところを、メディアプロのAIT事業部として取り組むことで一気に進みました。IT業界はPDCAサイクルが早く、これまで携わった業務の物差しとは違う測り方ができて新鮮に感じています」と前田さん。
生産者のみなさんと開いたマルシェ。後ろで三浦さんと前田さんが見守っています。
デザインを武器にプロジェクト推進
取り組んだ事業の一つとして、クラフトビールと料理のペアリングをコース料理として提供するイベントを開催しました。それを担当したのが、2021年11月にデザイナー、販売促進担当として入社したAIT事業部の矢野目翔太さんです。
こちらが矢野目さんです。
矢野目さんは、パッケージデザインに魅せられデザインの道へ。弁当チェーンなどの店舗を持つ企業で、ポスターなどの販促物の制作に携わります。その中で、6次化の商品開発にも関わりました。「商品の種類も多彩で、生産者独自の色が出せる6次化に触れ、面白さと可能性を感じました」
その後、会社を移り、北海道産の加工品のセレクトショップで、ブランディングとECサイトでの販売業務に携わりました。そこで、もともと好きだったクラフトビールの開発、販売を手がけます。
「実は、北海道はクラフトビールの醸造所の数が全国的にも多い地域なんです。今、クラフトビールは各地でいろいろな材料を使い、それぞれスタイルが違って個性的で面白くなっています。北海道は食がメインコンテンツですから、それに合わせるお酒も欠かせません。もっとクラフトビールを浸透させたい、盛り上げたいという思いで商品開発をしました」
オリジナルのクラフトビールを量産し、安価な商品が中心のドラッグストアで他の商品の3倍の価格にも関わらずヒットするという画期的な結果を残しました。
そして、矢野目さんもまた、Gapaouによく足を運ぶお客の1人でした。そして、前職を退職するという話を前田さんにしたところ、「ECサイトもやっていた、6次化でデザインにも関わっていたということで、ぜひうちに来てほしいとオファーしました」
そこで、AIT事業部の立ち上げに、デザインやプロジェクト推進全般で携わることになったのです。
あるべきところに、あるべき姿で届ける
矢野目さんが入社後、さっそくクラフトビールのイベントを提案し、即採用されました。「ビールに食べ物を合わせると言ったら、揚げ物や肉というイメージが強いですが、クラフトビールの生産者は繊細な味を作っていて、料理と合わせて価値を高める可能性はもっとあると思っていました。そこで、ワインのように料理1品1品にクラフトビールをペアリングして、コース料理で提供しました」
こちらがイベントのリーフと、イベント時の様子
醸造所の地元農家の生産物を使い、ご当地のペアリングが実現。地域に貢献するイベントとして、今後も進化させながら続けていきたいといいます。
矢野目さんは、デザインを「商品の価値を適切に捉えて、あるべきところにあるべきところにあるべき姿で届けるためのアプローチ」だといいます。「作り手の思い、素材を大切に、伝わるテイストやコピー、ビジュアルを選択しています」
今の業務は、正解がないものに挑戦する分、大変さはありますが、やりがいも感じるという矢野目さん。「私はもともと食べるのが好きで、北海道には魅力あるものがたくさんあるのに、知られていないのはもったいないと思っていました。クラフトビールもそうですが、いろいろな価値観や受け皿がある中、今まで光が当たっていなかったものも多くの人の目に触れるようにしていきたいと思います。この方向性でいいのか、マーケットがあるのか常に模索中ですが、北海道の食に関する事業の新しい形として、貢献できる位置付けになればと思っています」
食に新たな可能性を見出し、未来へ
一方、以前は疑問視していたITに活路を見出した前田さん。「外で汗水垂らしてものづくりをする生産者に対し、PCだけで成立するITには違和感を持っていました。でも、生産者のものづくりを表現し伝えるために、テクノロジーがいかに必要かが理解でき、取り入れていきたいと思うようになりました。農業や飲食など人の手で作る部分とITを使う部分、両方を合わせることで、新しい働き方も見出せると思います。今の若い人は料理人になりたい人が減っていますが、この分野の活性化にも注力したいと思っています」
そして、マルシェで自ら接客をしたり、農作業の手伝いにも精を出す三浦社長。「これまで20年間、ITの世界で企業同士の付き合いしかありませんでしたので、マルシェでお客様に接することが新鮮に感じます。今後の展開も楽しみですし、前田の夢である『ガパオを宇宙食にすること』を実現するために、突っ走っていきたいですね!」
スーツを脱ぎ、真っ白なTシャツを着てマルシェにて接客中の三浦さん
それぞれの分野で力を発揮してきた前田さんと矢野目さん、そして人のつながりを大切にし、新しい分野も受け入れ果敢に挑戦する三浦社長。ITは、手段はパソコンやネットワークですが、その目的や使う人は、食や人のつながりなど、実は血の通った温かさであふれています。アジア料理がご縁で始動したメディアプロのAIT事業部が、私たちにおいしい可能性を見せてくれるのが、これからとても楽しみです。
- 株式会社メディアプロ
- 住所
北海道札幌市北区北6条西6丁目1-14 粟井ビル5階
- 電話
011-708-8861
- URL
"農業" - Google ニュース
March 08, 2022 at 07:00AM
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料理がつないだご縁、農業×IT×食。株式会社メディアプロ くらしごと - kurashigoto.hokkaido.jp
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