2021年11月26日(金)午後6時14分 更新
十勝地方の農業を、若い世代にもっと知って欲しい!そんな取り組みが地域を挙げて始まっています。実りの秋、若手農家たちと大学生がともに過ごした2日間を取材しました!
取材:NHK札幌 宮内亮吉ディレクター
※11月26日の北海道道で放送します
北海道道
「未来を拓け!北海道農業」
26日(金) 後7:30~[総合]
※再放送 28日(日)前8:00~
若手農家✖大学生!2日間で十勝農業のファンに!
10月中旬のとある週末、帯広市郊外の広場に集まったのは、札幌からバスでやってきた大学生たち。若手農家が学生を受け入れて農業体験を行うインターン「絆プロジェクト」に参加するためです。
主催するのは「十勝地区農協青年部協議会」。つまり、十勝農業のこれからを担う若手農家たちです。農業の担い手が減少していく中で、さまざまな形で農業に関わってくれる人たちとの「絆」を広く結んでいきたいと考えています。
十勝地区農協青年部協議会 会長 宇野清将さん
農業を身近に感じてもらうためにやっておりまして、将来的に「農業の応援団」になっていただけるように、という思いで取り組んでおります。それは、農家になってもらう、農業を継いでもらうというふうにならなくとも、農業というものを応援していってもらいたいなという。参加してくれた学生が、自ら農業について話していってもらうというのも我々のPRにつながっていくのかなと思うので。農業はいろんな方に支えられて、それこそ飲食店だったりとか、今とても厳しいと言われる中で我々の作った作物を食べて少しでも元気になってもらったりだとか、それぞれの地域が作った野菜、牛乳、チーズなどをPRしていくことで、農業だけでなく市町村をどんどん大きくできたらいいなと思います。
学生たちを引率する北海道大学の小林国之准教授も、地域に根ざした農業を続けていこうとする次世代の農家たちと10代・20代が触れあう機会は、農業だけでなく北海道のこれからを考えていく上でも大切なことだと考えています。
北海道大学大学院農学研究院 地域連携経済学 准教授 小林国之さん
北海道農業のことをよく語るときに「北海道の自給率は200何パーセントなんだよ」とか、そういう数字をPRとしては使うんですけど、一方で多くの人たちが生活する中で十勝の農家のことを頭に思い浮かべることがあるかというと、ほとんど無いと思うんですよね。そこにつながりが無いということは双方にとってすごくもったいないことだなと思っています。
若手の農家の人たちの声を聞いても、このまま周りから人がいなくなっていったときに、自分はこの地域で農業はできるけど、暮らしていけるんだろうか、子どもを育てることができる環境が20年後も残っているんだろうか、そういうことに漠然とした不安を持っています。そういった中で、これまでの北海道の農村の歴史がそうであったように、新しい人が入ってくる、そういう人たちからまた新しい刺激を受けて、いろんな人とのつながりを作りながら北海道の新しい農村の形を、若手農家のみなさんとか学生たちが生きていく未来には必ず必要になっていくと思うんですね。それが無い限り、北海道の農村というのはたぶん存続していけないだろうという危機感をみなさん持っていると思います。
農業をやる人とかやれる環境にある人は当然限られているんですけど、一方で誰もが食事をするわけでして、たとえば農家の人のことを少し知ってみるとか、機会があれば十勝に来てみるとか、どんなつながりでもいいので農業との関わりを持ってもらうということが、生産している地域が存続し続けることを考える大事なきっかけになるんじゃないかなと思っています。
大変…でも、楽しい!学生が見出した「やりがい」と「農業のありがたさ」
学生を受け入れるのは、畑作農家と酪農家それぞれ3名ずつ。そのうちのひとりが、上士幌町の酪農家、菅原崇さん(36歳)です。
菅原さんの元には、3名の学生がインターンに入ります。
すぐさま、菅原さんの牧場へ。ほどなくして、夕方の搾乳作業が始まりました。
3人が任されたのは、搾乳そのものではありませんでした。乳牛に搾乳機を取り付ける前に乳房をキレイにするための拭きとり作業、そしてそこで用いたタオルをひたすら洗浄する作業です。
およそ2時間半に及ぶ搾乳が終わると、間髪入れずに搾乳機の清掃です。
さらには、牛舎の清掃・エサやり。休む間もなく、作業が続いていきます。
搾乳開始からおよそ4時間後に終了。取材者から見ても、体力的に厳しいと感じる作業の連続でした。それでも学生たちは疲労の色を見せることなく、ただひたすら目の前の作業に取り組んでいました。
翌朝も、夜明け前から同様の牛舎仕事をこなした学生たち。終業後に、事務所でまとめのミーティングが開かれました。ここで菅原さんから、学生たちに一見地味な仕事を任せた理由が明かされました。
酪農家 菅原崇さん
もし、みんなが一生懸命タオル洗浄をしてくれなかったら、あんなにスムーズに搾乳作業は進まなかった。搾乳機を取り付けながら、乳房の拭き取り、機械に入ろうとしない牛の追い込みなどを兼ねると、僕ら家族3人だけだったら30~40分くらいは遅くなるんだよね。搾乳作業はチームプレーということを分かってもらえたかな。この短期間でも作業の効率が上がっていたのを見て、すごいな、ありがたいなと思いました。
3年生 倉田貴愛さん
同じ牛でも乳房の違いがあったり、いろんなことを感じながら作業していました。2日間、同じ作業を継続して続けたので、どんどん工夫をしながら効率よく作業をできるようになっていくのを感じることができたので、成長を感じやすいなって思いました。
修士2年生 上野綾さん
やっぱり大変でしたね!今まで酪農の現場を体験させていただいたことはなくて話を聞くだけだったのですが、今回実際に体験してみて、現場で働く人の気持ちも分かりました。自分は違う仕事に就くんですけど、消費者として、今後現場のことを意識して乳製品を買ったり、周りの人に伝えたり、そういうふうに農業・酪農と関わっていけたらいいなと思っています。
2年生 多田杏佳さん
私は都市部の育ちなのですが、まったく違うサイクルで生活、仕事をしてくださって、それで牛乳とかチーズとかの乳製品が私たちのもとに届くと考えると、やっぱりこういう経験を積ませていただくことによって、食事に対する意識とかが変わっていきそうです!
菅原崇さん
この「絆プロジェクト」の趣旨は「農業の応援団を形成する」っていうことで、長い目で見たらすごいいいなと思っています。ゆくゆくみんながこういう仕事に就くか就かないか分からないけど、就かなくてもこの2日間がいい経験になったと言ってもらえたらうれしいから。2日間、本当にお疲れさまでした!
わずか2日間、されど2日間。農業が「自分ごと」になる、そんなきっかけを与えてくれる時間だと感じました。
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