Pages

Wednesday, March 17, 2021

荒廃の地 のぞみの種まく 「農業の未来つくる」 富山 - 朝日新聞デジタル

 肌を刺す冷たい風が吹きすさぶなか、砂が混じる畑をスコップで掘り起こす。陶器やガラスの破片が次々と出てきた。車のタイヤも。「これをよけるところから始まるんです」。平松希望(のぞみ)さん(28)は、息つく間もなく手を動かした。

 宮城県東部の海沿いに位置する仙台市若林区の荒浜地区。かつて約800世帯2200人が暮らした。

 10年前の3月11日、震度6弱の地震が襲い、高さ10メートルを超す津波が地区をのみ込んだ。犠牲者は190人以上にのぼった。

 畑は、津波が2階まで達し、震災の記憶を伝える「遺構」となった旧荒浜小学校(2016年3月に閉校)のすぐ隣にある。震災前は住宅が建っていた場所だ。震災後、市は一帯を「災害危険区域」に指定。もとの住民は、内陸部に移転を余儀なくされたという。

 「震災前の荒浜を知らない私が、この土地をお借りしてもいいのかという思いもあった。大切に使わせていただかないといけない」と平松さんは話す。

     ◇

 富山県滑川市出身。2011年3月11日は、東北大への入学手続きのため、仙台市内にいた。タクシーで移動中に大きな揺れを感じた。宿泊先のホテルのロビーに流れるラジオを聞き続けた。被害状況は、刻一刻と大きくなる。不安が募った。

 富山に戻っても考え続けた。また大きな地震が来るかもしれない。福島では原発事故が起きた。東北に行って大丈夫だろうか。

 「何かの縁があるのかも」と信じ、5月から仙台で新生活を始めた。

 友人に誘われて参加した復興支援のボランティアサークルで、荒浜との縁が生まれた。

 側溝の泥出しやがれきの運び出しのほか、地域農園で採れた野菜の販売などにも携わった。大学入学まで農作業の経験はなかったが、農学部で農業経済学を学びながら荒浜に通ううち、農業に魅力を感じるようになった。

 荒浜の人たちから力をもらったからだ。田畑はがれきが覆い、大量の泥や潮水もかぶっていた。それでも、震災から3カ月後、大豆の種をまく農家がいた。地域の農業を取り戻そうとする姿に心をうたれた。

 通い詰めるうちに知り合いも増え、地域や農業のことを教えてもらえるようになった。そうした人の温かさもうれしかった。

 大学卒業後、農家などで2年間研修し、米や野菜の栽培から加工、販売まで教わった。17年春に独り立ちし、ブロッコリーやトウモロコシ、カリフラワー、仙台の伝統野菜「曲がりねぎ」などを育てている。一昨年の台風19号で育てていた野菜がだめになったときは、農家の先輩たちが何が悪かったのかを一緒に考えてくれた。

     ◇

 仙台で過ごした時間は、震災以降の被災地の歩みとぴったり重なる。

 津波が襲った荒浜でも、本格的な営農が再開している。作物のブランド化や収益性の高い農業を目指すため、農事組合法人や株式会社が立ち上がり、活気づいてきている。

 平松さんは言う。「ようやくスタートラインに立ったと思います。農業を取り巻く状況は厳しいし不安もある。ここは失ったものは多いけど、たくさんの未来をつくることができる。荒浜から農業の魅力を発信していきたい」

 今年、新たに9千平方メートルの土地を借りられることになった。スコップで掘り起こしている砂混じりの畑はその一部だ。

 4月、そこに地元の子どもたちとマリーゴールドの種をまく。黄色やオレンジの花が咲く光景を、訪れた人に眺めてもらいたいと考えたからだが、理由はもう一つある。土作りだ。マリーゴールドには害虫を予防したり、土を肥やしたりする効果があるという。

 農業が根付いた荒浜の風景をよみがえらせるための一歩だ。(野田佑介)

Let's block ads! (Why?)



"農業" - Google ニュース
March 18, 2021 at 09:00AM
https://ift.tt/3bViVIs

荒廃の地 のぞみの種まく 「農業の未来つくる」 富山 - 朝日新聞デジタル
"農業" - Google ニュース
https://ift.tt/2SkudNe
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update

No comments:

Post a Comment