シリーズ:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画
2020.04.20
【シリーズ:JAの現場から考える新たな食料・農業・農村基本計画】多様な住民が参加する地域の基本計画構築を JAはだの 宮永均専務理事一覧へ
食料自給率が37%にまで下がるなか、新型コロナウイルス感染症が拡大し「緊急事態宣言」が全国に発出された。日本の食料安全保障を揺るがす事態が現実味を増すなかで、今回の新基本計画は策定された。新型コロナウイルス問題を乗り越えながらこれからの10年、どう活力ある農業・農村を築いていくのか。今回は神奈川県・JAはだのの宮永均専務は、自給率を向上させるには、地域の多様な住民が農業に参加する地域農政の構築が重要だと提言する。
◆里地・里山も視野に農業振興
食料・農業・農村基本計画は、食料・農業・農村政策審議会の意見をもとに、政府が中長期的に取り組むべき方針を定めたものであるが、情勢変化等を踏まえ、概ね5年ごとに変更することとされ、2020年3月31日に新たな「食料・農業・農村基本計画」~わが国の食と活力ある農業・農村を次の世代につなぐために~の基本計画が策定された。
今回の改定では主に食料自給率目標、国内生産基盤、農村政策が議論されている印象が強いが、この基本計画はもっと広く農政の基本方針と施策が定められるべきではないか。これはわが国の食料・農業・農村が次世代へと持続的に継承され、国民生活の安定や国際社会に貢献していくために、今後10年先の農政指針となるものでなければいけないと考えるからだ。さらに自然災害や新型コロナウイルス感染症の拡大、貿易自由化の加速などが食料自給率の低迷に影響し、日本の食料安全保障を揺るがす事態になりつつある。このため国内農業生産の増大と食料自給率を向上させることを基本に、日本の食料・農業・農村の将来はどうあるべきかを農業・農村の現場に立ち戻って地域で考えていかなければならない。
また基本計画は、農業の持続的な営みを通じて、多くの生物の生息環境を形成する田園地域や里地里山を保全していくため、地域において策定される計画のもとで農業生産の維持や生産基盤の管理といった生産関連活動と、生物多様性の保全を両立させる取り組みを促進するものでなければならない。さらに、森林・林業基本計画と連携する必要もあり、里山林は林業の振興などをはかる中で、多様な生物の生息・生育地などの保全をはかりつつ、ボランティア、NPOなどとの連携により多様な利用活動を促進することも重要ではないかと考えている。
しかし、農業経営や里山管理では広範囲で農薬が使用されている。いずれの計画においても、たとえば環境保全型農業の促進に生物多様性保全の観点から農薬使用を制限するなどの里地里山保全施策を加えるべきではないか。なぜなら、前述した理由はもちろんであるが、秦野市では化学肥料や農薬の影響により重要な生物種の生態が消滅の危機にあることや、猪や鹿、ハクビシンなどによる農作物への被害が深刻だからである。
人の営みによって連綿と受け継がれてきた里地里山の自然環境は、経済社会の変化によって農林業の暮らしの中での利用が減少したことで、耕作放棄地や手入れが行き届かない森林の増加、藪や竹林の拡大、水路やため池の荒廃が進み、今危機にさらされている。結果、これまで生息・生育してきた多くの動植物が姿を消しつつある。生物多様性にとって里地里山の保全は重要な課題であり、地域農業振興にとっても保全管理がきわめて重要である。里地里山を保全するうえでは、人と自然のかかわりの再生が鍵となり、新たな担い手や行政、専門家も加えた多様な主体による協働の枠組みのもとに、保全活用を推進することが課題である。人と自然とのかかわりの歴史を通じて、集落を中心に資源が循環し、持続的に自然の恵みを享受する空間が形成・維持されてきた地域を取り戻したい。この地域再生ができることにより、かねてからの目標である食料自給率向上へと期待が持てるのではないか。
食料自給率低下の要因は、輸入農産物由来の食品の熱量が増加していることが考えられる。カロリーベースでの食料自給率は1965年度から1975年度で73%から54%へと大きく低下、さらに1990年度は48%に低下、2000年度に40%まで低下した。2018年度は37%まで低下しているが2000年度以降はこの間大きく変化していない。これは、高齢化による需要の減少により自給率を押し上げる効果と国内生産量減少により、自給率の低下が見られず食品構成の変化が自給率変化にほとんど表れないからであるが、1人・1日当たり国産供給熱量は2018年の912kcal/人・日から2025年度に1,031kcal/人・日と119kcal増加する目標だが、総供給熱量は2018年度の2,443kcal/人・日から、高齢化による食料消費量の減少による予測で2025年度には2,314kcal/人・日に下方修正した。
カロリーベースの食料自給率は2018年度の37%から2025年度に45%にするという目標になっているが、前述した多用な主体による協働が確立できない限り、このカロリーベース食料自給率目標45%の達成は容易なことではない。
◆地域とJA 連携強化を
谷口信和東京大学名誉教授は、「平時の食料安全保障としては自給率向上が第一級の課題であることを再確認し、自給率向上に資するあらゆる可能性を活用する視点を明確にすべきである。たとえば、耕作放棄地の復旧・活用にあたっては牛のほかに山羊や羊の放牧も含め、農業者だけでなく多様な地域住民の参加をも視野に入れた政策の構築が必要である。また、市民農園を始めとする多様な自給的性格の強い土地利用の実態を把握し、平時におけるそれらの積極的な奨励が不足時の食料供給に果たす役割を適切に評価し、位置づけるべきである。(日本農業年報65)」と指摘している。同様の考えのもと実践する一人として感銘を受けた内容である。
JAにとって自給率向上のための農業生産の拡大は、自己改革で求められている最優先課題であるが、課題を認識しつつ10年、20年、30年と長期間に渡って着実に取り組んでいかなければ届かない自給率目標となってしまう。さらに今日の状況は、農業者の高齢化による担い手不足、荒廃農地の拡大など農業や地域の存続が危ぶまれる状況がある。こうした問題解決のためにも、基本計画の方向に即した自給率向上のために農業者、地域、JAが連携し可能性を模索していかなければならない。この可能性を実現するためJAはだのでは、耕作放棄地の復旧・活用、遊休農地の特定農地貸付事業による市民農園の設置・運営、体験農園設置、はだの都市農業支援センターによる市民農業塾の運営などを行い、農業者だけでなく多様な地域住民参加による取り組みを拡大し、食料自給率向上へ貢献することを目標にしている。
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April 20, 2020 at 01:47PM
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