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Wednesday, July 6, 2022

【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国民全体で農業支える機運と具体的行動を~農を守ることこそ安全保障の要~ - 農業協同組合新聞

農家の赤字が膨らんでいる。国が動かないなら、消費者も、小売も、メーカーも、もっと考えて動かないと、農家は本当に倒産してしまう。国民も輸入途絶したら食べるものがなくなる。こんなことを放置している場合ではない。農家はここを乗り切れば未来が拓けると信じて前に進もう。日本農家は今も世界10位の生産額を誇る精鋭、希望の光。世界を驚嘆させた江戸循環農業の実績も忘れず、その底力を発揮しようではないか。

クワトロ・ショックとトリプル・パターンで激化する食料争奪戦

クワトロ・ショック(コロナ禍、中国の「爆買い」、異常気象、ウクライナ紛争)に見舞われ、すでに世界は食料危機に突入し、輸入途絶は現実味を帯びてきている。2022年3月8日には、シカゴの小麦先物相場はついに2008年の「世界食料危機」時の最高値を一度超えてしまった。

ロシアとウクライナで小麦輸出の3割を占める。物流停止にはトリプル・パターンが重なっている。ロシアやベラルーシは食料・資材を戦略的に輸出しないことで脅す武器として使っている。ウクライナは耕地を破壊されて播種も十分できず、海上封鎖されて出したくても出せないという物理的な停止である。もう一つは、インドのように自国民の食料確保のために防衛的に輸出規制する動きで、こうした輸出規制が20数か国に及んでいる。日本は小麦を米国、カナダ、オーストラリアから買っているが、代替国に需要が集中して食料争奪戦は激化している。

とりわけ、化学肥料原料のリン、カリウムが100%、尿素の96%が輸入依存で、その調達も中国の輸出抑制で困難になりつつあった矢先に、中国と並んで大生産国のロシアとベラルーシが輸出してくれなくなり、高くて買えないどころか、すでに製造中止の配合肥料も出てきて、今後の国内農家への肥料供給の見通しが立たなくなってきている。

最近顕著になってきたのは、中国などの新興国の食料需要の想定以上の伸びである。コロナ禍からの中国経済回復による需要増だけではとても説明できない。例えば、中国はすでに大豆を約1億トン輸入しているが、日本が大豆消費量の94%を輸入しているとはいえ、中国の「端数」の300万トンだ。

中国がもう少し買うと言えば、輸出国は日本に大豆を売ってくれなくなるかもしれない。今や、中国などのほうが高い価格で大量に買う力があり、コンテナ船も相対的に取扱量の少ない日本経由を敬遠しつつある。そもそも大型コンテナ船は中国の港に寄港できても日本の港には寄港できず、中国で積み直してから日本に向かうことになるなど、円安などの要因と相俟って日本に運んでもらうための海上運賃が高騰している。

一方、「異常」気象が「通常」気象になり、世界的に供給が不安定さを増しており、需給ひっ迫要因が高まって価格が上がりやすくなっている。原油高がその代替品となる穀物のバイオ燃料需要(トウモロコシのエタノール、大豆のディーゼル)も押し上げ、暴騰を増幅する。

金で買えない事態に金で買うことを前提にした「安全保障」は無意味

今突き付けられた現実は、食料、種、肥料、飼料などを海外に過度に依存していては国民の命を守れないということである。それなのに、貿易自由化を進めて調達先を増やすのが「経済安全保障」かのような議論がまだ行われている。貿易自由化を畳みかけるように進めたために、国内農業が縮小し、有事に耐えられない事態を招いたのに、さらに貿易自由化が必要だと言うのは論理破綻である。

根幹となる長期的・総合的視点が欠落している。国内の食料生産を維持するために自給率を高めるのは、短期的には輸入農産物より高コストであっても、飢餓を招きかねない不測の事態の計りしれないコストを考慮すれば、長期的・総合的コストははるかに低く経済合理的なのである。それこそが安全保障である。

どうして今、倒産危機の稲作や酪農に減産要請なのか

有事突入で国産振興策こそが急がれるはずの今、それをしないばかりか、逆に政府は在庫が増えたからと言ってコメや生乳を減産要請している。そんなことをして農家の意欲を削いでいる場合か。

コロナショックでの在庫増は余っているのでなく、食べたくても買えない人が増えた側面が強く、実は足りていないのだ。世界の飢餓人口も7億人に上る中、抜本的増産支援と国内外への人道支援も含めた需要復元・創出で消費者も農家も共に助ける出口対策に財政出動しないと食料危機は回避できない。

さらに驚くべきことに、国産振興こそが不可欠なことは誰の目にも明らかな今、政府は、コメをつくるなと言うだけでなく、その代わりに麦、大豆、野菜、そば、エサ米、牧草などを作る支援として支出していた交付金をカットすると決めた。この期に及んで目先の歳出削減しか見えない亡国の財政政策が最大の国難とも言える。

しかも、輸入小麦が値上がりすれば食パン価格は上がるのに、肥料、飼料、燃料などの生産資材コストが急騰しても、農家の国産農産物の販売価格は低迷したまま、農家は悲鳴を上げている。酪農産地では、酪農家の9割が赤字で、あと数か月持つかどうか、との切実な声がある。一方、輸入小麦が高騰していても国産小麦が在庫の山だとの情報もある。

食料安全保障推進財団が生産者と消費者の架け橋に

食料自給率、エネルギー自給率の向上のための抜本的な議論が必要なのに、それが行われていない問題とともに、それが一夜ではできない中で、経済制裁の強化、敵基地攻撃能力強化の議論が行われている。

ロシア・中国・アジア・アフリカvs西欧ブロックの対立構造の中、食料・資源・エネルギー自給率が極端に低い日本が米国追随で経済制裁を強化したら、食料・資源・エネルギー自給率が相当に高い欧米諸国と違って、日本は自身が経済封鎖され、自らを「兵糧攻め」にさらすリスクが高い。ABCD包囲網で窮地に追い込まれたような事態を自ら作りだしてしまいかねない。欧米も自国優先で日本を助けてはくれない。

今こそ、政府だけでなく、加工・流通・小売業界も消費者も、生産者への想いを行動に移していく必要がある。社会全体が支え合わなくては有事は乗り切れない。国民全体で食料生産を支える機運の共有と具体的行動が不可欠な今、そのための情報提供・理解醸成・意見交換と行動計画策定の全国展開が急務である。

かねてより市民セミナーの開催を農協としても支援したいが、農協という組織規程上の縛りがあるから直接支援できないという嘆きも聞いてきた。こうした状況も踏まえ、生産者の安全・安心な食料生産とそれを支えて地域と日本の食を守る活動に賛同下さる、個人・組織・企業の皆様に広く会員登録をしていただき、その会費を原資に市民セミナーを全国展開し、生産者と消費者の想いをつなぐ「架け橋」をつくろうと考えと考え、3月26日に食料安全保障推進財団を立ち上げた。

この財団も活用し、国民の理解醸成と行動に結びつけ、政府にも働きかけたい。有事に国民の命を守るのが国防とすれば、食料・農業を守ることこそが防衛の要、これが安全保障だ。コメ1俵1.2万円と9000円との差額を主食米700万トンに補填するのに3,500億円、全酪農家に生乳kg当たり10円補填する費用は750億円。米国からのF35の6.6兆円(147機)の購入費や、防衛費を5兆円増額するのに比べても、まず食料確保に金をかけることを惜しんでいる場合ではない。

食料危機が眼前に迫る中、今を踏ん張れば、農の価値がさらに評価される時代が来ている。特に輸入に依存せず国内資源で安全・高品質な食料供給ができる循環農業を目指す方向性は子供達の未来を守る最大の希望である。世界一過保護と誤情報を流され、本当は世界一保護なしで踏ん張ってきたのが日本の農家だ。その頑張りで、今でも世界10位の農業生産額を達成している日本の農家はまさに「精鋭」である。誇りと自信を持ち、これからも家族と国民を守る決意を新たにしよう。江戸時代に自然資源を徹底的に循環する日本農業が世界を驚嘆させた実績もある。我々は世界の先駆者だ。その底力を今こそ発揮しよう。国民も農家とともに生産に参画し、食べて、未来につなげよう。

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July 07, 2022 at 01:04PM
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