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Sunday, January 16, 2022

若夫婦の挑戦、自然負荷を抑えた農業 - 朝日新聞デジタル

 間引きしたニンジンは葉も茎も柔らかい。採りたてだから香りもいい。葉も使ったかき揚げは、オレンジと緑のコントラストが鮮やかだ。揚げることで香りが増す。

 山すそに広がる栃木県栃木市北西部の寺尾地区。2016年春に開園した「ぬい農園」で採れる野菜は味が優しいと評判だ。

 ニンジンの葉は水分が抜けやすく、色が変わりやすい。だからスーパーで葉付きのニンジンを見かけることは少ない。農園主の縫村啓子さん(34)は「採れたての野菜は全然違う。農家になって実感しました」と話す。

 一人暮らしだった祖父の重義さん(102)宅に引っ越し、畑を譲り受けて農園を開いた。翌年、啓美(はるみ)さん(34)と結婚。2人で約1・3ヘクタールの畑を世話する。

 作るのは約40種類の旬の野菜。化学肥料、化学農薬は一切使わない。「循環」を掲げ、手間はかかるが、肥料や堆肥(たいひ)には牛ふんや鶏ふん、もみ殻、落ち葉など身近で手に入る安全な資源を使うよう心がけてきた。

 啓子さんはサラリーマン家庭に育った。東京農大から東京農工大大学院に進んだものの、農家に憧れたわけではなかった。青年海外協力隊員として途上国で農業指導するのが夢だったが、中国留学を機に農業そのものに関心が移った。

 農業部門がある出版社に就職した直後、その部門が縮小された。就農への思いも募って2年で辞めた。「有機で野菜をやろう」と足を踏み出した。

 どこで就農するか迷った末、祖父の家と畑のある栃木に決めた。2年間の農業法人研修を経て独立した。

 会社員の父義已(よしみ)さん(73)は農家として働く重義さんをずっと見てきた。子どものころから繁忙期は農作業を手伝った。周囲から「農業では食えない」と言われ続けた。農家を継ぐ選択肢はなかった。

 「農業でやっていくのは大変。会社員の方が苦労しなくてすむ」と娘の就農にも賛成できなかったが、啓子さんの決意は固かった。

 昨年6月、長女灯乃(ひの)ちゃんが生まれた。出産前の病院通いや子育てがあり、啓美さんが孤軍奮闘した。それまで野菜セットの宅配が中心だったが、収穫、配達まで手が回らなくなった。

 昨年春から栃木市と鹿沼市下野市のヨークベニマル地場野菜コーナーに、ぬい農園のラベルが付いた野菜を出荷し始めた。農園に興味を持った人から注文が入る宅配と違い、「高い」と言われることもある。それでも多くの消費者に農園を知ってもらうチャンスは2人にはありがたい。「価値はいくらでも下げられるが、価値を上げる課題をやめてしまうと、農家は食べていけない」と啓美さん。

 農家になって、啓子さんは旬の野菜はシンプルな料理がいいと実感するようになった。食べ慣れているはずのナスやニンジン、キャベツを食べた人から「野菜のおいしさを知って感動した」という声が届くたびに、農家を選んでよかったとうれしさがこみ上げる。

 農業は1+1が2になるとは限らない。綿密な栽培計画を立てるが、大雨、強風、日照りなど自然はいつだって手厳しい。「経験を積んでも作物を作る難しさは変わらない。それでも畑を取り巻く季節ごとの風景や、落葉樹が芽吹き、緑が濃くなっていく変化は言い表せないほど美しい」

 今年、灯乃ちゃんが保育所に入ったら、野菜セットの宅配を再開する予定だ。ゆずジャムなど加工品にも力を入れていく。「ワークショップも開きたい。ぬい農園の野菜をもっと知ってもらいたい」(佐藤善一)

=おわり

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January 17, 2022 at 08:30AM
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