ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)事業に長く関わる中で、各地で切実な問題として見えてきたのが、農業の担い手の絶対数が減少していく状況に打つ手があるかという、我が国の農業が抱える構造的な課題でした。農林水産省が毎年公表している「新規就農者調査」によると、2018年(平成30年)の新規就農者は5万5810人で、その中でも概ね20年以上の長期的な就農が見込める49歳以下に絞ると、半数以下の1万9290人となっています。
一方で、2018年から2019年にかけて農業就業人口は7万2000人の減少となっており、就業人口の減少を食い止めるだけでも現在の2倍以上の新規就農を促していかなければなりません。そして、農村コミュニティを含め農業を維持していくためにも、就業人口の増加は急務と言えます。農業就業人口や新規就農者数の過去5年間の推移をまとめたのが、下記の表です。
ソーラーシェアリングで農業者の所得の向上が図れると言っても、そもそも地域の農業を受け継いでいく後継者がいなければ、高齢化が著しい現役農業者の所得を増やしたとしても、時間差こそあれ地域の農業は崩壊していきます。また、上記の表にある「新規就農者」のうち約76%は、いわゆる「農業後継者」が就農した人です。そして、残りの24%が農家世帯ではない人の新規就農になり、その実数は2018年だと年間13万000人程度にしかなりません。これは日本の人口の0.01%程度という少なさです。
農業者が減少していく以上は、農家世帯に属する人口も減少するので「農業後継者」も減っていきます。となると、就農者を増やす、テコ入れを行うには、この1万3000人という農業界の外からの新規参入をどう増やしていくかが1つのテーマになります。
新規参入に大きな可能性を持つ業界とは?
私も千葉エコ・エネルギーとして2017年から農業参入を経験し、平均年齢30歳前後のメンバーで新規就農を果たしましたが、こうやって未経験者が異業種から「えいや」で飛び込んでいく事例は、本当にレアケースでしょう。ですが、ソーラーシェアリングのコンサルティングを全国で数多く手掛けてきた中で、ソーラーシェアリング事業をきっかけとした農業への新規参入を果たしていく企業を何社も見てきました。特によくみられたのが、建設業界からの参入です。
ソーラーシェアリングを含めた太陽光発電の施工を担う企業として、日本全国で土木工事や電気工事会社の方々に接してきました。中小の地場の建設業者であれば、経営者や従業員の実家が農家であったり、兼業農家が居たりというケースは珍しくありません。農業と建設業というのは、実は非常に近しい領域にあると感じます。農業工学の一分野として農業土木がありますし、農地の造成・整備から農業用施設の建設までを手掛けるのも、こういった領域の方々です。
この記事を書くにあたって改めて数えてみたところ、自社ソーラーシェアリング事業をきっかけに農業にも参入した建設業者が、私の客先だけでも過去3年間で10社以上ありました。考えてみれば、これは農業への新規参入者の数からすると少なくない数字です。
改めて文献を探ってみると、2000年代には「建設業界と農業」について分析した農林中金総合研究所などのレポートが見つかります。テーマとしては「建設業の帰農」という設定で、建設業従事者には兼業農家が多く、普段の業務で機械操作に慣れていることもあり、技術的な参入障壁は低いという分析が見られます。当時は一般法人の農業参入規制がありましたが、現在は賃借であれば参入のハードルは低くなってきていますし、農業法人を別途設立しなくても事業領域の1つとして手掛けることも可能です。
そして、FIT制度の下で大量の太陽光発電所が建設され、その工事に携わった経験を持つ建設業者が各地に存在するわけですから、ソーラーシェアリングに取り組む際も設計・施工・運営まで自社でこなすことができるポテンシャルを有していると言えます。これまで何とはなしに農業の近くにあった建設業が、単に農業生産だけの参入であればハードルが感じられたところに、ソーラーシェアリングという要素を加えていくことで、収入の面を含めて一歩を踏み出しやすくなると考えられます。
今後、実際に農業への参入を果たした企業へのヒアリングも行いながら、この仮説が正しいかどうかを検証してみたいと思います。
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