農林中金総研は11月9日に第3弾となる緊急フォーラム「世界と日本の食料安全保障を考える」をオンラインで開き、約470人が参加した。基調講演に続きパネルディスカッション「世界と日本の食料安全保障を考える」を行った。
パネルディスカッションでは「世界の食料需給をどう見るか」、3人の専門家が見方を述べた。
農林水産政策研究所食料需給分析チーム長の古橋元氏は、同研究所が今年3月に公表した「2031年における世界の食料需給見通し」をもとに話した。それによると、アジア・アフリカの総人口の継続的な増加と所得水準の向上で新興国・途上国を中心とした食用・飼料用需要の増加は中期的に続くとみる。ただし、先進国だけでなく新興国・途上国でも経済成長は今後鈍化し、穀物などの需要の伸びはこれまでより緩やかとなると見通している。
古橋氏
一方、供給面では生産性の伸びによって穀物等の生産量は増加すると見通している。そのなかで国際価格は世界の穀物等の需要量と供給量の増加が拮抗するなか、畜産物価格の伸びが鈍化して「下押し圧力が強まり、やや低下傾向を強める見通し」と価格低下を予想している。ただし、ウクライナ情勢は織り込まれておらず、情勢によっては上振れするリスクもあるとした。
(株)資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は「世界の食糧需給はひっ迫傾向が強まる」と予想する。世界人口は2030年に86億人になることが見込まれており、1人当たりの年間穀物消費量を400㎏とすると34億tが需要量となる。一方、穀物収穫面積は10%増の7.7億haとなるが単収の伸びはわずか供給量は31億tと需要量より3億t少ないと見通した。柴田氏は「マーケットが不安定になり、わずかな需給バランスの変化でも価格が大きく変動する」と予想した。
平澤明彦理事研究員は世界の食料需給と持続可能な農業とをどう折り合いをつけるかについて指摘した。農薬や肥料の使用量削減をめざす「FtoF戦略」を打ち出したEUでは生産量の減少と価格上昇の予測が出てきたという。一方、ウクライナ情勢の影響で食料増産のために農業補助金の環境要件を一分緩和するという動きもある。
ただ、長期的には環境規制を強める方向であり、多くの国に広がった場合、「新たな食料危機につながらないよう注意しなければならない」と指摘し、生産性確保に向けた技術研究などの重要性も挙げた。
平澤氏
そのうえでパネルディスカッションでは今後の食料安保の確立に向け、柴田氏は「安い食料を輸入すればいいという考えは終わった」と強調し、肥料やエネルギー価格の高騰によって生産基盤が失われる「農業危機」も懸念されることから、「国内生産の拡大に絞った基本法の抜本的な見直しが必要」と提起した。
平澤氏は「自由貿易だけでは食料は裕福な国の飼料や燃料向けに使われ、途上国は需要の調製弁のように扱われ、必需品が十分に供給されない」ことを指摘した。そのため途上国が自国の生産を強化することが必要なことや、潜在的な増産余地をある地域の増産や輸出への協力が世界の食料安全保障にとっては必要だと話した。
そのうえで日本の問題点として、輸入農産物によって国内生産基盤が弱体化し食料自給力が損なわれつつあるという阮蔚氏が前半の講演で指摘したアフリカとも似た状況にあることを指摘。土地利用型農業の本格的な立て直しと生産者への直接支払いの充実が課題だとした。
土地利用型農業の中心となるのが水田だが、柴田氏は「もっとも優れた生産装置。畑地化の流れだがダム機能があり地域社会全体を維持している機能がある」と水田機能を評価すべきと話した。
平澤氏は「畑地化は必要だが、じっくり時間をかける中長期の計画が必要」と指摘、その理由として環境に配慮した農業の推進と単収への影響を見極める必要があることや、地域の水利システムをどう考えるべきかなどの課題を挙げた。
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November 15, 2022 at 02:20PM
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