こんにちは。
今日は、先週の投稿にいろいろなご意見、ご感想をいただいたことでもあり、「つくられる食糧危機 パート2」といった内容の文章を書こうと思います。
物議をかもした昔の国連機関誌掲載論文
もう14年も前に、国連の機関誌『UN Chronicle』に「飢えの効用」という論文が掲載されました。その後ずっととくに問題視されることもなく、UN Chronicleのサイトに行けば読める文章でした。
著者紹介と冒頭の部分をご紹介すると、以下のとおりです。
この論文が貧しい人をバカにしているとの批判がSNSなどを通じて広まりました。
その結果、国連は「この文章はもともと諷刺あるいはパロディとして書かれたのに、本気で書いたものと誤解する人が多いから」との理由で、今年7月初めにUN Chronicleのサイトから削除してしまったのです。
もう退官していますが、ハワイ大学元教授のジョージ・ケント氏はおそらく古風なマルクス主義的左翼だと思います。
彼は本気で、自分たちが儲けるために労多くして報われることの少ない仕事をしている人たちを飢餓状態に陥れている資本家たちを批判しようとして、この文章を書いたのでしょう。
そして、欧米の政財界の大物たちに比べれば、弱い者、貧しい者の味方が多いと思っていた国連の機関誌に、安心して自分の正直な意見を載せたのだと思います。
ところが、書斎派左翼にはありがちなことですが、この人はひょっとすると巨額の富を稼いでいる実業家より、(単純と思いこんでいる)肉体労働をする人たちをじつは軽蔑しているのではないかと邪推したくなる表現をしています。
「もし飢えていなかったら、だれがタネを蒔き、田畑を耕し、作物を穫り入れ、だれがトイレ掃除をするだろうか? 飢えていなければだれもやりたがらないだろう」などと平然と書いてしまっているのです。
トイレ掃除をしている人にだって、プロ意識を持って立派な仕事をしている人はいるでしょう。ましてや農業のひとつひとつの過程が、飢えに迫られていなければだれもやりたがらない仕事だなどというくだりには、農家の皆さんなら怒りを覚えて当然です。
さて、時は移ろいゆくものでして、2010年代半ばごろから国連は大スポンサーであるロックフェラー財団やビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の使いっ走りをするまでに落ちぶれてしまいました。
そうなってみて国連が困ったのは、ジョージ・ケント論文をどう扱うかです。
というのも、現在グローバリストたちが推進している、農業いじめと人為的な飢餓の創出に十数年も先回りして、あまりにも痛烈な批判をしてしまっているからです。おまけに、農民ならカンカンに怒るような表現まで使って挑発している。
そこで、SNSでミニ炎上が起きたのをいい機会と考えて、論文全体を削除してしまおうということになったのでしょう。
なぜWEFは農業いじめをしたがるのか?
今度はなぜ、世界経済フォーラム(WEF)は、ここまで農業を目の敵にするのかを考えていきましょう。
彼らの見解は、いつも断片的で文脈を読み取るのに苦労しますが、農業批判は割に首尾一貫した主張になっています。
かんたんに言ってしまえば、「農業はすさまじい資源浪費で、その割に収穫物は高値で売れない。こんな仕事はどんどん工場や実験室で効率よくできるようにしてしまえ」ということです。
具体的には「農業は、貴重な土地を使い過ぎていて、しかも人間が主要な栄養源としている穀物や野菜を収穫する土地よりずっと広い土地を、はるかにエネルギー効率の悪い食肉用・酪農用の畜産物の生産に使っている」という主張です。
ついつい「なるほど、こんなに広い農地の8割近くを畜産に使いながら、人間が摂取するカロリーや蛋白質の供給源としては、半分にもなっていないのか。そりゃ、効率が悪すぎる」と言いたくなります。
ですが、人間がものを食べるのは十分な量のカロリー、蛋白質、炭水化物、油脂を摂取するためだけでしょうか? 食事そのものを楽しく、おいしく食べたいからという理由も非常に大きいと思います。
おいしい肉や酪農製品を育てるためには穀物を耕す田畑よりずっと広い牧場が必要だったら、それはまったく正当な土地利用でしょう。別に、菜食主義者の方々にまで無理やり肉や酪農製品を食べさせようとするわけでもありませんし。
そこを素通りしてしまうのが、WEFのダメなところであり、もう少し広くグローバリストたちの視野の狭いところだと思います。
なぜ素通りするかと言えば、貧しくとりたてて高い能力を持っているわけでもないふつうの人間がおいしいものを食べたいと思うこと自体、身の程知らずな思い上がりだと思っているからなのですが。
世の中すべてを温室ガス排出量で測る一元論
おまけに、彼らは「人類が二酸化炭素を吐き出しすぎたために起きている地球温暖化は、人間だけでなく、地球上の全動植物の危機を招いている」と主張しています。
ありとあらゆる現象を排出する温室ガスが多ければ悪いこと、少なければいいことと断定するのです。
こうして、昆虫は小麦や木の実と並んで、牛肉、鶏肉、豚肉よりずっと地球に優しい食材だという暴論が出てくるわけです。
これがいかにでたらめな議論かはあとでじっくり検討することにして、地球に優しいはずの「持続可能な食糧確保」論は、自分たちが育ててきた家畜にさえちっとも優しくないという事実を、彼ら自身の描いたグラフが証明しています。
「柵にわずらわされず、自由に歩き回って草を食べて育った牛がいちばんカーボンフットプリントが高いからダメで、牧場の中だけで育った牛も比較的多いからダメ、牛の中では身動きも取れないほど狭いところにとじこめられて、抗生物質を混ぜて促成栽培のように太らせた牛が、いちばんカーボンフットプリントが小さいからマシ」とするのは、狂っています。
こんなに弊害の多い肥育法を、温室ガス排出量だけを見て良しとする人たちには、自然をあるがままに尊重する気持ちなどまったくなく、自分たちの信念どおりに自然まで造り変えてしまおうという野心があるだけしょう。
疫病もまた畜産農家を窮地に追いこんでいる
ところで、今アメリカで大変深刻な疫病が大流行しているのに、ほとんどニュース見出しにさえなっていないことをご存じでしょうか?
もちろん、もうコケ脅しが利かなくなってきた新型コロナのことではありません。
2018~19年に中国全土で猛威を振るったアフリカ豚熱(African Swine Fever)に勝るとも劣らないほど悪質な高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)のことです。
まず、中国のアフリカ豚熱がどれほど深刻な被害をもたらしたかから見ていきましょう。
2018年のうちはかなり多かった豚の出荷頭数は、2019年には激減し、その落ち込みは2020年になっても埋まらず、やっと2021年に2018年並みに回復したそうです。
しかも、2018年に出荷頭数が多かったのは、必ずしも健全な状態で肥育された豚の頭数が多かったからではありませんでした。
1頭でも感染が確認されると豚舎ごと殺処分にしなければならないので、まだ感染が出ていない養豚農家では、育ちきっていない豚まで出荷してしまったようです。
中国がアフリカ豚熱による養豚業の不振からようやく立ち直ったころ、今度は太平洋を隔てて、アメリカで高病原性鳥インフルエンザが猛威を振るっています。
この問題は、これまでアメリカ政府やWHOなどの政策に批判的だった人たちのあいだでも、ほとんど話題になっていません。
次にご覧いただく表も、本題として鳥インフルを扱った投稿ではなく、「近ごろやたらに食品工場の失火が多いのは、人為的に国民を飢餓状態に追いこもうとする陰謀ではないか」という記事にずらずら列挙されていた食品・畜産関連事故の中から私が拾い出したものです。
中国のアフリカ豚熱は最終的に4000万頭台半ばの病死・殺処分による犠牲が出たそうですが、アメリカで去年の初めから今年6月までの1年半でもほぼ同数の食肉用の鳥たちの病死・殺処分が出ています。
もちろん、豚1頭と鳥1羽ではまったく大きさも重さも違いますから、現状では中国ほどの経済被害は出ていません。
ただ、鳥がかかる感染症のやっかいなところとして、野鳥・水鳥が冬の寒さを避けて渡って来る9~10月頃、群れの中に1羽でもすでに感染した鳥がいると、鶏舎などで飼っている鶏、さらには七面鳥、アヒルなどにも急激に被害が広がることです。
もちろん、渡って来る鳥の一部を捕獲してウイルスを持っているかどうかを調べているのですが、半島なので水鳥と飼い鳥との接触が多くなるフロリダ州や、カナダとの国境沿いの州に陽性反応が出た野鳥・水鳥が多くなっています。
なぜこれだけ大きな事件が、ほとんどだれにも取り上げられずに放置されているのでしょうか。
とくに、ミシガン湖内の島で大量のオニアジサシがこの感染症で命を落として、死骸が散乱している様子などは、絶滅危惧種であるだけに環境団体の関心を呼んでもよさそうなものですが。
どうも、新型コロナ当時よりさらにきめの細かな報道管制がアメリカ中に敷かれていて、SNS経由でさえ、なかなかこの大事件が話題にならない構造ができてしまったようです。
とにかく「畜産農業は効率が悪い」と切って捨てようとしているグローバリストたちは、肥育している家畜が感染症で大きな被害を受けるのは当たり前という雰囲気をつくりたがっているようです。
そう考えると、アフリカ豚熱にしても高病原性鳥インフルエンザにしても、もう少しおとなしいウイルスを、機能獲得研究によって強力にしてばら撒いているのではないかという疑惑も湧いてきます。
それに比べて、WEFがご執心の昆虫食については、議論の出発点と実際にやろうとしていることが正反対になっています。
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編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年9月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。
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