(写真提供◎越乃さん 以下すべて)
圧倒的なオーラを放つトップスターの存在、一糸乱れぬダンスや歌唱、壮大なスケールの舞台装置や豪華な衣裳でファンを魅了してやまない宝塚歌劇団。初の公演が大正3年(1914年)、100年を超える歴史を持ちながら常に進化し続ける「タカラヅカ」には「花・月・雪・星・宙」5つの組が存在します。そのなかで各組の生徒たちをまとめ、引っ張っていく存在が「組長」。史上最年少で月組の組長を務めた越乃リュウさんが、宝塚時代の思い出や学び、日常を綴ります。第22回は「全国ツアー公演のススメ」のお話です。
(写真提供◎越乃さん 以下すべて)
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「出る場面すべて違う役」も
宝塚歌劇は、本拠地宝塚大劇場、東京宝塚劇場の他に、
小劇場のバウホール、梅田芸術劇場や赤坂ACTシアターなどの都心部の公演や、
博多座や御園座、そして全国各地をまわる全国ツアー公演があります。
「全国ツアー公演で初めて宝塚を観た」という方も多いのではないでしょうか?
私は下級生の頃から、比較的全国ツアー公演に入る確率が高めでした。
というわけで今日は全国ツアー公演のお話です。
全国ツアー公演は、年に3回程実施されています。
組が、バウホールなどの小劇場公演組と全国ツアー公演組と二手に分かれ、
全国ツアー公演は約35人程の人数で回ります。
演目は、大劇場公演で上演されていたものが多く、
大劇場では全員でやっていたものを、半分以下の人数で行います。
と、なると、
下級生の頃は「出る場面すべて違う役」ということもありました。
衣装を、着る順番になるように重ねてスタンバイします。
しかし疲れも溜まってくると、順番を間違えてしまうこともしばしば。
警官にならねばならないところを、紳士の衣装を着てしまったり、
黒の靴を履かなければいけないのに、白のエナメル靴を履いていたり、
開演前もバタバタしていると、口紅を付けていなかったり、
裏では毎日なんやかんやが起こります。
下級生の頃の、このなんやかんやの全国ツアーでの経験が、
どんなことにも対応できる舞台人に鍛えてくれるのです。
公演が終わって5分から10分で楽屋を出る
上級生になってからも、違う役で出演することはしばしばありました。
あるとき、『ダル・レークの恋』というインドを舞台にした作品がありました。
私は一族の長で、ヒロインの祖父のチャンドラという役でした。
専科から、一樹千尋さんが出演されており、
主役のラッチマンの父親役をされていました。
全国ツアーメンバーの中でも最も男くさいと言われていたこの2人に、
なぜか「貴婦人」という役が付きました。
貴婦人???
なぜ女役なのか、初めはブツクサ言いながらも、
「あらー奥様! 今日もいくわよー」などと会話しながら
結構楽しんでいたという思い出があります。
全国ツアーは、人数が少ないために、こんな思わぬ配役になることもあるのです。
そして、台詞がある、歌がある、見せ場があるなど、
本公演より活躍の場が増えるのも、全国ツアーや小ホール公演の特徴です。
私もありがたいことに様々なお役をいただきました。
そして、全国ツアー公演といえば、楽屋出です。
公演が終わって5分から10分で全員楽屋を出なくてはなりません。。
パレードの次ということで、
「第26場 即出の場面」などといって、早く退館する事すら楽しんでいました。
即出は経験と力技がモノをいう
では「第26場 即出の場面」を詳しく見ていきましょう。
あくまでも、私が下級生の頃の大昔のお話です。
まず、パレードの時点で、衣装の下に洋服を着こみます。
(といってもズボンとかではなく、スパッツです。スパッツ…)
そしてすぐさま宝塚化粧を落とさなくてはいけません。
これが大変です。
大きなコットンに、ベビーオイルを染み込ませたものを2、3枚用意しておきます。
つけまつげを取ったらそのままそのコットンで拭き取ります。
そのままでは顔がオイルだらけでベトベトです。
ですので、マジックタオルを濡らしてスタンバイ。
それで拭いて仕上げます。
コットンでゴシゴシは肌には超絶悪いやつです。
気持ち的にマジックタオルはまだ優しい気もします。
でも、ここは肌のことなんかより、先に退館することの方が大事です。
しかし、急ぎすぎるとまつ毛をつけたままベロン…
まつ毛はそのまま「さようなら」になってしまいますので慎重に。
化粧を取って私服に着替えたら、全力で退館です。
キャリーバッグをいかにスムーズに使いこなすかというのも、ここで身につけた技です。
どんな凸凹の道でも、己の腕の絶妙な力加減で、キャリーバックを倒す事なく走らせられる自信があります。
「第26場 即出の場面」は、経験と力技がモノをいう場面となっています。
先日3代目のキャリーバックを重量オーバーで破壊し、今は4代目に
ホテルでの洗濯物を早く乾かす技術
全国ツアーで学んだ事は他にもあります。
ホテルでの洗濯物をいかに早く乾かすか。
この選手権があれば、必ず上位を狙える自信があります。
まずはバスタオルを何枚も用意するところから始まります。
洗面所でお湯を溜め、洗剤を投入し、洗う、洗う、洗う。
ある程度は手で絞ります。
まだ若かりし頃は、ゴム手袋の存在が頭になく、ひたすらに手で絞っていたら、
みごとに皮膚がキレてしまい、おしんのような手に。
ある程度絞ったら、バスタオルを床に広げ、そこに洗濯物を端っこから広げていきます。
そのままバスタオルを巻き寿司の要領で巻き巻きし、
巻き巻きしたら、ひたすら足で踏みます。
この踏む作業が大変です。
ホテルに入ったら、どんなに疲れていても、お腹がすいていても、眠たくてもまずはこの作業!
私の下級生時代はこんな感じでした。
時代が変わり、ホテルに洗濯機がついているところが増えたり、コインランドリーが増えたりして、おしん体験をしている人は今ではほとんどいないと思いますので、皆様ご安心を。
地方公演で宝塚を初めて見る方の新鮮な反応
全国ツアーではいろんな土地へ行きました。
北海道公演の時は、お寿司のネタが大きくて、美味しくて、ものすごく感動したのを覚えています。
博多では、屋台のラーメンを食べに行きました。紅生姜を山のように入れて、真っ赤なスープときくらげだらけになったラーメンがとてつもなく美味かった記憶があります。
周りには何もない場所に劇場が立っている地域もありました。
お客様はどこから来てくれるのだろうか? と不安になるくらい何もないところでした。
しかし幕が開いてみると満席です。
宝塚を初めて見る方がほとんどなのでは? という反応でしたが、皆さんそれぞれに楽しんでくださっている様子で、嬉しかったのを覚えています。
そんな新鮮な反応が見られるのも、全国ツアーならではです。
終演したその足で次の会場に移動、というのもよくあることでした。
今、何県のどこにいるのか、朝起きたときに自分がどこにいて何をしているのかがわからなくなるのも、全国ツアーあるあるです。
そして、全国ツアーで何より嬉しいのは、地元での公演です。
家族、親戚一同、恩師、友人、近所の人まで、知った顔がたくさんいます。
ファンの方が描いてくださった全国ツアー公演「Heat on Beat!」
人の温かさを知ることができた全国ツアーの旅
ご当地出身者がいると、パレードの後に紹介をしてくれます。
初めての地元新潟での公演のとき、真琴つばささんから紹介していただきました。
いつものごとく、そのときの記憶も曖昧で、
自分がそのとき何とご挨拶したかも覚えていないのですが、
客席がペンライトでいっぱいになったそのときの景色は鮮明に覚えています。
ペンライトが自分に語りかけてくれているようで、とても嬉しく、
ちょっと誇らしい気分になりました。
のちに組長に就任し、ご当地出身者を紹介する立場になりました。
出身地の生徒に向けられた大きな拍手や笑顔が、あのときの自分と重なります。
初めて訪れた街で、その土地のことは何も知らなくても、
その土地の人の温かさを私たちはたくさん知っています。
そんな全国ツアーの旅でした。
皆さんの街に宝塚が来たら、
全国ツアー公演ならではの雰囲気を、是非一度味わってください。
そして、ご当地出身の生徒にどうか大きな拍手とエールを。
※次回の配信は、6月29日(水)の予定です
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June 01, 2022 at 10:30AM
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越乃リュウ 「ホテルで洗濯物を早く乾かす選手権」があったら上位に入れます!怒涛の全国ツアーの思い出。終演10分で楽屋を出る「第26場 即出の場面」も懐かしい(2022年6月1日)|BIGLOBEニュース - BIGLOBEニュース
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