全国屈指の農業地帯・北海道十勝地方で農業インターン事業を手掛ける「TASUKI」の山内一成さん（41）。20年で1500人を超す都市の大学生と、十勝の農家をつないできた。農作業や農家らとの会話を通じ、学生に農業の魅力や地域の現実、自身を知る機会を創出。学生にも農家にも好評で、活動の輪はさらなる広がりを見せる。（尾原浩子）
山内さんは三重県出身。東京での学生時代、ベンチャー企業が展開するインターンなど人材コーディネート事業を手伝ってきた。初めて十勝を訪れたのは大学4年の時。雄大な農地で誇りを持って経営する農家の姿に、言葉で表現できないものを感じた。「一生の仕事にしたい」と、大学卒業以降も企業などに所属しながらインターン事業を手掛け続けた。 転機は2016年。「地域の人間にならないと、あなたの本当にやりたいことはできない」。妻の一言が移住の後押しになった。家族で東京から十勝に移住。仲間5人で「TASUKI有限責任事業組合」を立ち上げた。
昼は芋掘り、夜は「人生」掘り起こす
インターンに参加する学生は年100～120人。学部はさまざま。2週間前後、ジャガイモやテンサイの定植、種まき、収穫など多様な現場に出向く。 インターン事業が全国で増える中、TASUKIが選ばれる理由を山内さんは「人事や研修でのプロの視点と地域密着視点で課程を作っている。自分探しをしたい学生は、ひたむきに作業をする中で見いだせるものがある。地域の協同、農家の知恵や生きざまなど学びが本当に多い」と語る。昼の十勝の大地での作業と夜の農家らとの対話。この、日中には芋を掘り、夜には自身の人生を掘り起こせることが学生には好評だ。頭でっかちになりやすい青春時代の学生の心に響くという。 受け入れ先は、十勝管内のJAなどに声を掛けて募る。当初「北海道に憧れてちょっと農業をやりたいなんて迷惑だ」と言っていた農家も、今は応援団だ。
2週間で見違えるほど成長
費用は農家に拠出してもらい学生の参加は無料。農家にとって農繁期の人手不足対策につながるが、山内さんは「単なる労働力の補填（ほてん）と考える農家は受け入れ先として続かない」と言い切る。学びに真剣に向き合う農家が協力する。農家にとって、学生が2週間で見違えるほど成長する姿も喜びだ。「農業や農村は厳しい」と思い込む学生には、未来志向で経営する多様な農家らとの出会いは大きな刺激だ。
帯広市の畑作農家・前多幹夫さん（41）は「普段話せない首都圏の学生との出会いは大きな魅力。よく働いてくれる」と強調する。 昨今はコロナ禍で都市と農村の往来が難しい。しかし、かつてインターンを経験した学生が、十勝の農産物を購入するなど関係は続き、互いの励みになっている。学生からは「人生観が変わった」「かけがえのない出会いがあった」との感想が寄せられる。山内さんは「受け入れ先も学生も口コミで増え、輪が広がっている。コロナ禍が収束すればまた本格的に展開したい」と見据える。
日本農業新聞
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October 19, 2021 at 09:11AM
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