Pages

Thursday, September 16, 2021

川崎市でワイン造り、都市農業の変革目指すカルナエスト・山田貢代表の熱情 - ITmedia

2020年夏に完成した「蔵邸ワイン」は、原料栽培から醸造まで全て神奈川県川崎市で行われた初の川崎ワインだ

 日本国内でワイナリーが急増している。

 国税庁の調査によると、果実酒製造場数は2014年3月末に334場だったのが、19年3月末には約1.4倍の466場に。そのうちワインを製造するのは331場(19年)で、こちらは年間20〜30場も増えている。国の特区制度を活用することで参入障壁が下がっていることや、「日本ワイン」に対する人気や需要の高まりなどが背景にある。

 ワイナリーの絶対数が増えたことで、産地にも変化が見られる。山梨、長野、北海道といった地域が大半を占めることには変わりないものの、近年は都心でワイン造りを行う「都市型ワイナリー」も出てきている。

 ただし、その多くは醸造施設のみで、原料となるブドウは他の地域から調達している。そうした中で、ブドウの栽培から醸造までを一貫して行っているワイナリーが神奈川県川崎市に誕生した。仕掛け人は、農業生産法人・カルナエストの山田貢代表。本格的な都市型ワイナリーとして、周囲の期待は大きい。

 「ワインには夢があります。ワインを通して若い人たちが農業に興味を持ち、それが都市部の農業の未来につながっていけばうれしい」と山田さんは熱っぽく語る。

 もともとワインにも農業にも無関心だった山田さんは、なぜワイン造りを始めたのか。

反対を押し切って美容の世界へ

 カルナエストのブドウ畑があるのは、川崎市麻生区岡上(おかがみ)。最寄り駅は小田急線の鶴川駅で、新宿から30分程度で到着できる立地だ。

 山田さんはこの岡上で代々農業を営む家に生まれた。自身が9代目に当たる。しかしながら、「子どものころから農業が嫌いだった」と回想するように、すんなりと家業を継いだわけではない。高校卒業後、親や親戚の反対を押し切り、美容の世界に飛び込む。専門学校を出て美容師やヘアメークの仕事に就いた。

農業生産法人・カルナエスト代表の山田貢さん

 ただし、自分の好きなことに没頭しながらも、心の片隅には、長男としていずれは家に戻らなければならないという気持ちがあった。あるとき、山田さんは、どのみち農業を継ぐのであれば、自分がやりたくなるようなことができるよう、農業の在り方を変えてしまおうと考えた。

 「農業といえば1次産業だけという風潮に違和感を持っていましたし、誰もがすぐに農業を始められるわけではないという、職業選択の不自由さも感じていました。そうした仕組みを変えるために、本気で農業のビジネスモデルを作りたいと思いました」

 いろいろと思考を巡らせる中で、農業の「六次産業化」に行き着いた。6次産業とは、生産の1次産業に加えて、2次産業の製造・加工、3次産業の販売・流通・サービスを統合した形態のこと。山田さんがまず着手しようとしたのが3次産業の部分で、飲食店を開くことを決めた。ちょうど当時、農家カフェや産地直送レストランなどが都会で流行っていたこともヒントになった。

 「農業を見ていて、需要と供給を理解せずに野菜を生産している人が多いと思いました。例えば、このズッキーニが何に使われるか分からないまま作るのでは駄目で、きちんと出口戦略まで考えなくてはなりません。そこで飲食店を作ろう、料理を覚えようとなったのです」

 山田さんは23歳から約5年間、ヘアメークの仕事と並行して、都内のレストランでも働き、調理とバーテンダーの修業に励んだ。「修業と言ってもかっこいいものではなく、アルバイトのダブルワークのようなものです。ただ、とにかく学べるものは学んでやろうと思いました」と山田さんは話す。

 無事に調理師の免許を取得。11年、29歳のときに地元に戻り、小田急線・新百合ヶ丘駅から徒歩3分の場所にダイニングバー「Lilly's by promety」をオープンした。きっと理解されないだろうと、両親には農業のビジネスモデルうんぬんといった詳しい説明はしなかった。「勝手に店をやるから、野菜だけちょうだい」と伝え、実家から規格外で出荷できない野菜を取り寄せて、メニューの原材料として活用するところから始めた。

2011年に開業したダイニングバー「Lilly's by promety」(写真提供:カルナエスト)

農家に対する尊敬の念を知る

 山田さんがワイン造りを始めたのは13年。もともとは関心もなく、「儲(もう)からないと思っていた。ボトルすら開けられなかった」(山田さん)。バーテンダーとしての修業も、主にフルーツを使ったフレッシュカクテルの技術を磨くことが目的だった。ただ、飲食店を経営する中で、ワインへの顧客ニーズが高いことを肌で感じるようになる。

 「一度、ワインを学んでみよう」。そう思い立った山田さんは、ソムリエの資格を取るためのワインスクールに通う。その初回の授業で衝撃が走った。

 日照率や降水率など、農業そのものの勉強だったのだ。そして、大手航空会社のCA(キャビンアテンダント)をはじめとするクラスメイトたちが、ブドウ農家のことを「造り手」と呼び、尊敬の念を抱く様子を見て、さらにショックを受けた。

 「え、造り手って、泥だらけで農作業している、うちのじいさんのような人のことでしょ……?」

 ワインの世界においては農家が敬われ、慕われるものなのだと実感した山田さんは、単に知識を習得するだけではなく、自らが本格的にワイン造りに携わることを誓った。授業の後、スクールの講師に「苗木はどこで買えるのですか?」と質問し、すぐさま苗木を入手。それまで白菜畑だった丘陵の場所約30アールに苗木を植えて、ブドウ畑に変えた。

岡上にあるブドウ畑(写真提供:カルナエスト)

 「長年、じいさんや親が泥だらけになって苦労する姿しか見てこなかったので、農家がこうした扱いをされるのは画期的で、びっくりしました。農業に憧れや夢を持ってもらえることが、ワインならば可能だと感じました」

神奈川県で初のワイン特区へ

 意気揚々とワイン造りをスタートした山田さんだったが、ここで法律の壁が立ちはだかる。いくら手塩にかけてブドウを育てても、自らの手でワインを造ることができないのだ。

 酒税法において、ワインは年間6000リットル(750ミリリットル瓶で換算して約8000本)以上の生産量がなければ、酒造免許を取得できない。山田さんのワイナリーでは、現在でも年間200リットルほど。基準には到底及ばない。

 17年にピノ・ノワールやシャルドネなどのブドウを初めて収穫したが、自社では製造できないため、外部に委託してワインを造るしか方法がなかった。結局、山田さんの初めてのワインは、東京都練馬区の醸造所に委ねられることとなった。

さまざまなワイン用ブドウを栽培する(写真提供:カルナエスト)

 「全て自分の手で完成させたい」。そう強い思いを持っていた山田さんはワイン特区のことを知る。

 特区、すなわち「構造改革特別区域」とは、内閣府が定める、法律が規制緩和される特別な区域のこと。全国にはさまざまな特区が存在し、ワイン特区も現在までに50カ所以上ある。ワイン特区の認定を受ければ、少量でもワイン製造ができるようになる。

 山田さんはすぐさま川崎市役所にかけ合う。特区の申請に際して、川崎市としては、カルナエスト1社だけのために動くというわけにはいかず、市内のほかの生産者にもワイン造りの意思があるかどうか確認する必要があると判断。とはいえ、市から「ここの農家はどうか」という目星が付いているわけでもなかった。

 「そうであれば、私が探してきます」と、山田さん自身が積極的に動く。知り合いの生産者などに声をかけて、ワイン造りを呼びかけた。結果的に、カルナエストを含めた5農家が申請書に名を連ねることとなった。

 その後、川崎市は内閣府とやりとりをしながら特区の申請手続きを進める。20年1月に申請が完了し、3月に「かわさきそだちワイン特区」として認定を受けた。これは神奈川県で初のワイン特区となった。なお、21年3月には相模原市もワイン特区として認定されている。

“正真正銘”の川崎ワイン

 特区になって終わりではない。ワインの酒造免許も必要だ。免許を取得するためには、製造施設の管理状況や製造技術能力、経営基盤の安定性など、包括的な審査をクリアしなければならない。山田さんや川崎市の関係者などによると、特区の申請よりも、免許を取ることの方がはるかに大きな苦労を伴ったという。

ワインの醸造施設

 紆余曲折の末、晴れて20年11月に酒造免許を取得。これによって、山田さんは自社でのワイン造りが可能になった。また、神奈川県でブドウの栽培から醸造までを一貫して行う第1号ワイナリーが誕生した瞬間でもあった。

 これによるメリットはいくつもある。その最たるものが、地理的表示(GI)だ。18年10月に酒税法の改正によって、ワインはGIが厳格になった。ブドウの栽培場所と醸造場所が別であれば、ワイナリーのある地名をラベルなどに表示することはできない。

 従って、以前は山田さんのワインも「川崎」や「岡上」の文字を入れられなかった。今回これが可能になった効果は大きい。ラベルを一目見てワインの産地が分かるし、地域のアピールにもなるからだ。

委託醸造していた時のワインラベル。酒税法改正によって2018年のラベル(右)には地名が記されていない

 こうして、21年7月に完成した“正真正銘”の川崎ワインには、地名がしっかりと刻まれている。

 ただし、川崎市が取得したのは、「特定農業者による特定酒類の製造事業707(708)」という特例措置のため、ボトルや瓶などに詰めて販売することはできず、山田さんが自営するレストランでドリンクメニューとしての提供に限られる。

地域を巻き込む

 山田さんは地域でのワインの啓発活動にも力を入れる。

 実家で持て余していた蔵に手を入れ、コミュニティースペースとして活用できるようリノベーションした。実は山田さんの妻もソムリエ免許を持つため、そのスペースを使って夫婦でワインスクールを始めたのだ。

蔵を改装して地域向けのワインスクールなどに活用している

 スクールといっても小難しいことを教えるのではなく、ワインを楽しく飲むための基礎的な知識などを学べる場にしている。対象も地元の人たちがメイン。現在までに受講生は300人を超えるが、8割が地元だという。

 「地域で新しいことをやると批判を受けやすいです。『あそこの息子、ワイン造りなんてまた突拍子もないこと始めたよ』という声が当たり前に出ます。だからこそ、地域の人たちと一緒にワインを学んだり、農業体験をしたりすることが大切だと考えています。みんなも楽しんでもらえれば、新しい取り組みも応援してもらえるかなと思いました」

故郷を守りたい

 ワイン造りなどによって、農業を夢のあるものに変えたいと山田さんは訴える。そこには都市農業を守りたいという強い思いがある。

 川崎市の農業就業人口(販売農家)は00年に2295人いたが、15年には1289人と半数近くに。農地面積は、同期間で777ヘクタールから580ヘクタールに減少した。原因の一つが宅地化だ。岡上でもこの大波が押し寄せてきている。「農地を宅地に転用したら、もうその場所で農業はできません」と山田さんは嘆く。

 農地を守り、都市農業を存続させるためには、農業を魅力あるものに変えなくてはいけない。では、魅力あるものとは何か。それは「稼ぐ農業」だという。

 「結局、稼げないから、手っ取り早く土地を売ってしまえとなるわけです。都市部に農地を残すためには、やはり確固たるビジネスモデルを作ることが不可欠です」

 カルナエストでは飲食店に加えて、食品加工場も建てるなど、六次産業化に取り組んでいる。ワインについては、現状は稼ぐことができていないものの、多くの人たちを呼び込むアイテムとしては最適だ。マーケットも世界に広がっているため、いろいろな可能性はある。都市農業の一つの出口戦略として、ワインには今後も力を入れていきたい考えだ。

(写真提供:カルナエスト)

 川崎市としても、マイクロツーリズムなどの新たな観光スポットとして、山田さんのワイナリーに期待を寄せる。「いずれは川崎市の名産品として、例えば、ふるさと納税の返礼アイテムにもなれば」と、農業振興課の担当者は声を弾ませる。

 今年7月にワインが完成した直後に、神奈川県はまん延防止等重点措置、そして緊急事態宣言に突入したため、思うようにワインを振る舞うことができず、山田さんは歯痒さを感じている。

 早く多くの人たちに自信作を味わってもらいたい――。そうした思いを抱きながら、来年にリリースするワインの仕込みが始まった。今回はピノ・ノワール、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのブドウ約500キロを使う予定だ。収穫には地元の人たちも駆け付けた。

 ワイン造りによって都市農業の在り方を変え、故郷・岡上を守っていこうとする山田さんの活動は、地域の人々の心にも必ずや響いているはずだ。

著者プロフィール

伏見学(ふしみ まなぶ)

フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。


Adblock test (Why?)



"農業" - Google ニュース
September 17, 2021 at 03:00AM
https://ift.tt/3tMD4HU

川崎市でワイン造り、都市農業の変革目指すカルナエスト・山田貢代表の熱情 - ITmedia
"農業" - Google ニュース
https://ift.tt/2SkudNe
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update

No comments:

Post a Comment